結論:おひとりさま相続対策でまず何をすべきか
優先順位は「遺言 → 死後事務 → 判断能力対策」の順です
- 遺言書の作成(財産の承継先を確定させる)
- 公正証書遺言:2025年10月1日から公正証書作成手続がデジタル化され、Web会議での作成が可能になりました(日本公証人連合会, 2025年)
- 自筆証書遺言+法務局保管:保管申請手数料は1件3,900円(法務省 手数料一覧, 2026年)
- 死後事務委任契約(葬儀・納骨・部屋の明渡し・各種解約を委任する)
- 判断能力低下への備え(任意後見契約など。ただし後述のとおり2026年改正の影響を受けます)
「相続人がいない財産はどうなるか」を先に知っておきます
相続人がおらず国庫に帰属した遺産は2023年度に1,015億円となり、10年で3倍に増えて初めて1,000億円を超えました(日本経済新聞/最高裁への取材, 2025年)。2024年度(令和6年度)決算ベースでは約1,292億円に達しています(最高裁判所 司法統計, 2025年報道)。
「相続人がいない=自動的に国のものになる」のではありません。誰かが家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申し立てなければ、財産は放置されたままになります。申立件数は2023年で約6,948件(最高裁判所 司法統計)。この申立人になるのは、多くの場合、債権者か、面倒を見ていた甥・姪です。
なぜ甥・姪に負担が集中するのか(主な原因を深掘り)

独身のきょうだいの相続では、甥・姪が第3順位で相続人になります
戸籍広域交付は、最も戸籍集めが重いこのケースだけ使えません
郵送請求は往復で2〜3週間かかることも珍しくありません。転籍を繰り返している方の場合、複数の自治体に順番に請求するため、戸籍収集だけで1〜2か月を見込んでおくと安全です。
実家(不動産)が残ると、出口が一気に狭くなります
相続人がいない財産はどうなるのか?(原因別の見分け方)
ケース1:相続人が一人もいない場合
ケース2:相続人はいるが全員が相続放棄した場合
逆に言えば、よかれと思って実家に泊まり込んで片づけを始めると「現に占有」に近づく可能性があります。放棄を検討している段階では、鍵を預かる・荷物を運び出すといった行為を安易に行わず、司法書士や弁護士に先に相談されることをおすすめします。
ケース3:法定相続人ではないが世話をしていた人がいる場合
おひとりさま対策6手段の実額比較(具体的な解決方法)
| 手段 | 初期費用の実額 | 年間維持費 | カバーする時期 | 甥・姪が動く必要 | 効力発生まで | 2026年改正民法の影響 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ①自筆証書遺言+法務局保管 | 保管申請3,900円(法務省) | 0円 | 財産承継(死亡後) | 一部Yes(証明書請求1,400円等) | 作成即時 | 押印任意化で作成負担が軽く/将来は保管証書遺言へ移行可 |
| ②公正証書遺言(Web会議作成可) | 基本手数料(目的価額50万円以下で3,000円)+遺言加算13,000円 | 0円 | 財産承継(死亡後) | ほぼNo(検索システムで発見可) | 作成即時 | 影響小(デジタル化は2025年10月に実施済み) |
| ③任意後見契約 | 公正証書13,000円+登記嘱託1,600円 | 後見監督人報酬等が発生 | 判断能力低下時 | Yes(申立て・連絡) | 家裁の監督人選任後 | 後見・保佐廃止→補助へ一元化の影響を受ける |
| ④死後事務委任契約 | 作成30万円前後+預託金100万〜200万円 | 事業者により異なる | 死亡直後 | ほぼNo | 契約時 | 影響小 |
| ⑤家族信託 | 信託組成報酬(財産額により変動) | 信託口座管理等 | 生前〜承継まで | Noだが受託者が必要 | 契約時 | 影響小 |
| ⑥何もしない(清算人ルート) | 0円 | 0円 | ― | Yes(申立て・予納金立替) | 公告6か月以上 | ― |
| 対策ゼロの場合に甥・姪が負担 | 予納金20万〜100万円+官報公告料5,582円 | ― | ― | 必ず動く | 6か月以上 | ― |
遺言は「保管制度」を使うと通知まで設計できます
死後事務委任契約は「預託金の扱い」で選びます
ケース別の対処:叔父の遺産1,700万円をどう分けるか
ケースA:対策ゼロ・甥が相続する
- 戸籍収集費:約1万1,000円
- 広域交付の対象外のため本籍地へ郵送請求します
- 除籍謄本750円×8通+戸籍450円×4通+定額小為替手数料200円×12=約1万1,000円
- 相続登記の登録免許税:約2万円(固定資産税評価額500万円×0.4%)
- 相続税:0円(基礎控除3,000万円+600万円×1人=3,600万円を下回るため)
- 実家売却時の検討コスト:空き家の譲渡所得3,000万円特別控除の要件確認
| 指標 | ケースA |
|---|---|
| 甥の手取り | 約1,650万円(諸費用控除後の概算) |
| 甥が立て替える現金 | 約3万円 |
| 完了までの月数 | 3〜6か月 |
| 甥が窓口に行く回数 | 5〜8回(郵送請求含む) |
ケースB:対策ゼロ・甥が相続放棄する
| 指標 | ケースB |
|---|---|
| 甥の手取り | 0円 |
| 甥が立て替える現金 | 予納金50万円+官報公告料5,582円(申立人になる場合) |
| 完了までの月数 | 6か月以上(公告期間) |
| 甥が窓口に行く回数 | 家裁申立て+清算人対応で複数回 |
ケースC:遺言+死後事務委任がある
- 公正証書遺言:基本手数料+遺言加算13,000円
- 死後事務委任契約の作成費:30万円前後
- 預託金:150万円(使わなかった分は契約に従い返金)
| 指標 | ケースC |
|---|---|
| 甥の手取り | 遺言の指定どおり(実家の帰属先も確定済み) |
| 甥が立て替える現金 | ほぼ0円(葬儀費用は預託金から支出) |
| 完了までの月数 | 1〜3か月 |
| 甥が窓口に行く回数 | 1〜2回 |
空き家の譲渡所得3,000万円特別控除は、適用期限が令和9年12月31日まで延長されています。ただし令和6年1月1日以降の譲渡から、相続人が3人以上の場合は控除額が2,000万円に縮小されました。対象は昭和56年5月31日以前建築の家屋で、買主が譲渡の翌年2月15日までに耐震改修・取壊しを行った場合も対象となります(国土交通省, 2024年)。適用要件は個別性が高いため、売却前に税理士へご確認ください。
死後事務委任契約の費用はいくらかかるのか?
費用の内訳を分解します
- 契約書作成報酬(30万円前後):司法書士・行政書士等への支払い。戻りません。
- 預託金(100万〜200万円):葬儀・納骨・遺品整理・各種解約の実費に充てる原資。未使用分は返金対象。
- 執行時の事務報酬:死後に実際に動いた分の報酬。契約書で定めます。
他の対策との「同じ物差し」で見ます
- 死後事務委任(本人が生前に支出):30万円前後+預託金(一部返金)
- 相続財産清算人(甥・姪が死後に立替):予納金20万〜100万円+官報公告料5,582円+6か月以上の拘束
予防・再発防止のコツ:90日チェックリストと2026年改正の待ち方
独身の叔父・叔母が亡くなった日から90日でやること(甥・姪版)
- 死亡届・火葬許可の手続き(7日以内)
- 賃貸なら管理会社へ連絡(費用:なし/窓口:管理会社)
- 遺言書の有無確認
- 法務局へ保管事実証明書を請求(800円)
- 公証役場の遺言検索システムを利用(検索自体は無料)
| 取得したいもの | 広域交付で取れるか | 実務対応 |
|---|---|---|
| 自分の親(叔父の兄弟)の戸籍 | ◎ 取れる | 最寄りの窓口へ本人が出向く |
| 叔父本人の出生〜死亡の戸籍 | × 取れない | 本籍地へ郵送請求(往復2〜3週間) |
| 祖父母の除籍謄本 | × 取れない | 本籍地へ郵送請求 |
- 預貯金の残高証明を取得(窓口:各金融機関)
- 固定資産税納税通知書で実家の評価額を確認(窓口:市区町村)
- クレジットカード・サブスク・携帯の解約先を一覧化
- 放棄の損益分岐を判断:負債>資産、または実家が売れる見込みがない場合は放棄を検討
- 家庭裁判所へ相続放棄の申述(期限:死亡を知った日から3か月)
- 判断が間に合わない場合は期間伸長の申立てを行う
- 放棄後の保存義務を確認(民法940条:現に占有していなければ負いません)
3か月の起算点は「自己のために相続の開始があったことを知った時」です。先順位の相続人が放棄したことで自分が相続人になった場合、その事実を知った時から起算されるとされています。判断に迷う場合は、期限を待たず司法書士・弁護士へご相談ください。
2026年改正民法:今やる対策と、待ってよい対策を仕分けます
| 改正内容 | 施行時期 | 今どうすべきか |
|---|---|---|
| 遺言の押印の任意化 | 公布から1年以内 | 今すぐ作ってよい(押印しても無効にはなりません) |
| 保管証書遺言の創設(電子データ作成・法務局保管) | 公布から3年以内 | 今は従来の遺言で対応。制度開始後に切替を検討 |
| 後見・保佐を廃止し補助に一元化 | 公布から2年6月以内 | 任意後見の設計は専門家と改正前提で相談 |
専門家・公的情報の見解:どこに何を相談するか
一次情報にあたる習慣が最大の防御になります
- 法務省「民法等の一部を改正する法律」(2026年):2026年改正の全体像
- 法務省「自筆証書遺言書保管制度の手数料一覧」(2026年):手数料の正確な金額
- 法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」(令和8年6月30日現在・速報値):承認率の実態
- 裁判所「相続財産清算人の選任」「特別縁故者に対する相続財産分与」:申立ての手続き・必要書類
- 国土交通省(2024年):空き家3,000万円特別控除の適用要件と期限
- 日本司法書士会連合会(2024年):戸籍広域交付の対象範囲
高齢者等終身サポート事業(身元保証・死後事務・日常生活支援)については、契約前の説明、預託金の分別管理、解約返金条件の明示などを求めるガイドラインが策定されています(内閣官房 身元保証等高齢者サポート調整チームほか「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」令和6年6月)。
相談先の選び方
- 司法書士:遺言書作成支援、相続登記、相続財産清算人選任の申立書作成
- 税理士:相続税の要否判定、2割加算の影響試算、空き家特例の適用可否
- 弁護士:相続人間に対立がある場合、債務が疑われる場合
- 公証役場:公正証書遺言・任意後見契約。遺言検索システムの照会は無料
2025年10月1日以降の嘱託分から、約20年ぶりに改正された公証人手数料令が適用されています。目的価額50万円以下の手数料引下げ、任意後見契約公正証書の基本手数料が11,000円→13,000円へ増額されたほか、ひとり親家庭や身寄りのない高齢者など一定条件下での手数料軽減制度が新設されました(日本公証人連合会, 2025年)。該当しそうな場合は公証役場に軽減の可否をご確認ください。




