遺言書

自筆証書遺言 保管制度|預けた10%しか使われない親の遺言の実務

親の相続に直面する40〜60代向けに、自筆証書遺言の法務局保管制度を子の視点で解説。保管126,976件に対し実際に使われたのは12,890件という現実、子が代行できる範囲、相続後に最初に取る手続きの順序が分かります。

自筆証書遺言 保管制度|預けた10%しか使われない親の遺言の実務
まな先生解説
こころ質問
すい要点整理

自筆証書遺言 保管制度とは何か?まず何をすべきか

  1. 親が元気で、これから書く → 様式チェックリスト(後述)で下書きを点検し、住民票を取得して予約を取る
  2. 親がすでに書いて預けた → 保管証(保管番号が記載された書面)の保管場所を親に確認しておく
  3. 親が亡くなった → 遺言書保管事実証明書(800円)の請求から始める

制度の基本スペック

項目内容
保管申請手数料3,900円/通(収入印紙)
撤回・変更の届出無料
遺言書保管事実証明書800円/通
遺言書情報証明書1,400円/通
モニターによる閲覧1,400円/回
原本の閲覧1,700円/回
検認不要
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申請できる場所と、必要な持ち物

  • 遺言書(様式規定に適合したもの、ホチキス止めせず封筒も不要)
  • 保管申請書
  • 住民票の写し等:本籍および戸籍の筆頭者の記載あり/マイナンバー・住民票コードの記載なし/作成後3か月以内
  • 顔写真付きの身分証明書(有効期限内のもの)
  • 収入印紙3,900円分
注意

住民票の要件は3つ同時に満たす必要があります。役所の窓口で「本籍・筆頭者は記載、マイナンバーと住民票コードは記載しない」と明示して請求してください。うっかりマイナンバー入りを取ると受け付けられず、予約の取り直しになるおそれがあります。

自筆証書遺言の要件と書き方は?法務局が見る範囲はどこまで

自筆証書遺言の要件と書き方は?法務局が見る範囲はどこまで

法務局がチェックしないこと(ここが最大の誤解)

遺言書保管官は、遺言書の内容についての審査、相談を行うことはできません。また、この制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません。

(法務省民事局「自筆証書遺言書保管制度のご案内」2026年)

  • 遺言能力:作成時に認知症が進んでいたかどうか
  • 内容の有効性:不動産が特定できているか、実現可能な内容か
  • 遺留分の侵害:他の相続人の遺留分を侵害していないか

自筆証書遺言 ひな形は法務局のどれを使うべきか

補足

「相続させる」と「遺贈する」は使い分けます。相続人に対しては「相続させる」と書くのが一般的で、不動産の相続登記を単独で申請しやすくなるとされています。相続人以外(子の配偶者、孫、団体など)へ渡す場合は「遺贈する」を使います。判断に迷う場合は司法書士等にご相談ください。

【独自アセット】法務局がその場で受け付けない20項目・様式チェックリスト

  1. □ A4サイズか
  2. □ 文字が判読できる、地紋・彩色のない紙か(模様入りの便箋は避ける)
  3. □ 感熱紙(レシート用紙等)を使っていないか
  4. □ 片面のみに記載し、裏面は白紙か
  1. □ 上5mm以上・下10mm以上・左20mm以上・右5mm以上を確保したか
  2. □ 余白部分に文字・印影・ページ番号がはみ出していないか
  1. □ 全ページに通し番号を記載したか(1枚のみでも「1/1」)
  2. □ ホチキス・のり・クリップで綴じていないか
  3. □ 封筒に入れていないか(封のない状態で持参)
  4. □ 契印を押していないか
  1. □ 本文は全文自書か(財産目録以外はワープロ・代筆不可)
  2. □ 日付は年月日まで具体的か(「令和○年○月吉日」は不可)
  3. □ 氏名は戸籍・住民票どおりか(ペンネーム・通称は避ける)
  4. □ 押印があるか(2026年8月時点では押印は必須。認印可だがスタンプ印は避ける)
  5. □ 消えるボールペン・鉛筆を使っていないか
  6. □ 修正テープ・修正インクで直していないか
  7. □ 訂正は「上記○行目、○字削除○字追加」+署名+訂正箇所への押印の作法どおりか
  1. □ 目録の全ページ(裏面に記載があればその面にも)に署名+押印があるか
  2. □ 通帳コピーは銀行名・支店名・口座名義・口座番号が判読できるか
  3. □ 不動産は所在・地番・家屋番号まで書けているか(「自宅」「実家」だけでは登記できない)
  • □ 本籍・筆頭者入り/マイナンバー記載なし/作成後3か月以内の住民票の写しか
  • □ 顔写真付き身分証明書は有効期限内か
  • □ 予約は遺言者本人の名前で取ったか
注意

17番の訂正ルールは自筆証書遺言でもっとも間違いが多い箇所です。1文字直すだけでも作法を外すと訂正が無効になるおそれがあります。書き損じたら、訂正せず全部書き直す方が安全です。

補足

東京法務局本局では2025年3月10日から、遺言書のメールによる事前チェック等の試行が始まり、2026年2月2日から実施庁が大幅に拡大されました(法務省「自筆証書遺言書保管制度」新着情報)。ご自身の管轄が対象かは、予約前に法務省サイトで確認する価値があります。

自筆証書遺言の法務局保管にデメリットはある?公正証書との比較

子が代行できること/できないこと

場面子が代行できるか
下書きの様式チェック・清書用紙の準備○ できる
登記事項証明書を取って不動産の表示を調べる○ できる(誰でも取得可)
住民票の取得△ 同一世帯なら可。別世帯は委任状が必要
法務局手続案内予約サービスでの予約△ 操作の補助は可。ただし予約は遺言者本人の名義で取る
保管申請の当日の出頭✕ 遺言者本人のみ。代理・郵送不可
遺言書の作成(清書)✕ 本文は全文自書が必要。代筆は無効
保管の撤回・変更の届出✕ 本人のみ(撤回は無料)
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親の遺言、3ルート総コスト&総手間比較表

①自筆・自宅保管②自筆・法務局保管③公正証書遺言
(a) 作成時の実費0円3,900円財産の価額に応じた公証人手数料+証人・出張費
(b) 本人が動く回数0回1回(予約+本人出頭)1〜2回(自宅・病院への出張も可)
(c) 子が代行できるか△ 書類準備の補助のみ△ 書類準備・予約補助まで/出頭は本人のみ○ 公証役場との日程調整・資料提出は代行しやすい
(d) 相続後の実費検認申立の収入印紙800円+連絡用郵便切手+戸籍一式の取得費事実証明書800円+情報証明書1,400円×通数(法務局用・金融機関用の2通で2,800円)謄本の交付手数料(1通あたり数百円程度)
(e) 相続後の所要期間検認まで通常1〜2か月程度証明書の請求で足りる(検認不要)検認不要
(f) 他の相続人への自動通知なしあり(1人が閲覧・情報証明書交付を受けると全員に通知)なし
紛失・改ざんリスク高い低い(原本を法務局が保管)低い(原本を公証役場が保管)
内容・遺言能力の事前チェックなしなしあり(公証人が確認)
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制度のトレンドは逆方向に動いている

  • 法務局保管:2026年1〜7月の保管申請15,513件(前年同期12,778件から約21%増)。2026年7月単月は2,532件で制度開始以来の高水準(法務省民事局のデータから集計)
  • 公正証書遺言:令和7年(2025年)の作成件数は123,891件で、前年128,378件から約3.5%減(日本公証人連合会、2026年3月23日公表)

親が亡くなった後、子が最初にすべき手続きは?

ステップ1:預けているかを確かめる(遺言書保管事実証明書・800円)

  1. 交付請求書
  2. 遺言者の死亡の事実が確認できる戸籍(除籍)謄本
  3. 請求人が相続人等であることを確認できる戸籍謄本
  4. 請求人の住民票の写し
  5. 手数料800円分の収入印紙

ステップ2:中身を取る(遺言書情報証明書・1,400円/通)

ステップ3:通知が全員に飛ぶことを、請求前に理解しておく

注意

つまり、「自分だけ先に中身を見て、他の相続人には黙っておく」ことは構造上できません。あなたが証明書を請求した瞬間に、疎遠な兄弟にも法務局から通知が届きます。請求する前に、他の相続人へ自分から一報を入れておく方が、無用な不信感を避けられます。

保管なしだった場合

【独自アセット】判定チャート|これから書いてもらう/もう亡くなった

(A) これから親に書いてもらう側

  • いいえ(要介護・入院中・外出困難) → 公正証書遺言(公証人の出張作成) へ。保管制度は代理・郵送申請ができないため、選択肢に入りません。
  • はい → Q2へ
  • はい → 公正証書遺言を推奨。法務局は内容も遺言能力も審査しないため、後日「書かされたのでは」「不動産の特定が不十分」と争われた際の備えが弱くなります。
  • いいえ(財産構成が単純/相続人の合意がおおむね取れている) → Q3へ
  • → 待たずに、今の方式で書くことをおすすめします。詳細は次章のとおりで、2026年8月時点ではいずれも未施行です。空白期間を作らないことが優先されます。

(B) 親が亡くなった側

  • はい → 遺言書情報証明書(1,400円/通)の交付請求へ直行
  • いいえ → Q2へ
  • 「保管あり」 → 遺言書情報証明書を請求 → この時点で他の相続人全員に関係遺言書保管通知が届く → 検認は不要のまま、相続登記・金融機関手続きへ
  • 「保管なし」 → 自宅・貸金庫等を捜索 → 封のある自筆証書が出たら開封せず家庭裁判所へ検認を申し立てる
注意

どの分岐に進んでも、相続登記の期限は動きません。相続登記は2024年4月1日から義務化され、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に申請しないと、10万円以下の過料の対象となります(法務省・不動産登記法改正)。施行日前に発生した相続にも適用され、その場合の期限は2027年4月1日です。2026年8月時点で、そこまで残り約7か月半です。遺言書の有無を確かめる作業は、この期限から逆算して動いてください。

2026年の法改正で「今書くか、待つか」はどう変わる?

何が成立したのか

改正内容施行時期2026年8月時点
自筆証書遺言等の押印の任意化公布日から1年を超えない範囲内で政令が定める日未施行(押印は必要)
保管証書遺言の創設(電子データ等で作成し法務局が保管)公布日から3年を超えない範囲内で政令が定める日未施行
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なぜ待たない方がよいのか

  1. 今押印して書いた遺言が、施行後に無効になるわけではありません。 押印の「任意化」であって「禁止」ではないため、押印済みの遺言はそのまま有効に扱われるものと考えられます。
  2. 遺言はいつでも書き直せます。 保管制度なら、撤回・変更の届出は手数料無料です。新方式が始まってから改めて作り直す、という進め方ができます。
  3. 待っている間に遺言能力が失われるリスクがあります。 認知症の進行等で遺言能力が争われる状態になると、そもそも書けなくなります。

予防・再発防止|「預けたのに使われない」を防ぐ3つの仕込み

仕込み1:指定者通知を3名まで登録してもらう

仕込み2:保管証の写しと保管番号を、家族で共有する

  • 保管証をスマートフォンで撮影し、子が保存しておく
  • 原本の置き場所(金庫・引き出し)を家族間で共有しておく
  • エンディングノートに保管番号を書き写しておく

仕込み3:預けた後こそ、内容の点検を専門家に依頼する

  • 不動産の表示が登記事項証明書と一致しているか(司法書士)
  • 遺留分を侵害していないか、侵害するなら意図的か(弁護士・司法書士)
  • 相続税の負担が特定の相続人に偏っていないか(税理士)

やってはいけないNG対応7つ

  1. 子が親の遺言書を代筆する:本文は全文自書が要件です。代筆は無効となるおそれがあります。
  2. 日付を「令和○年○月吉日」と書く:日付が特定できず無効とされる典型例です。年月日まで書いてください。
  3. 修正テープ・修正液で訂正する:様式違反です。書き損じたら全部書き直す方が安全です。
  4. 不動産を「自宅」「実家」とだけ書く:登記が通らず、結局は遺産分割協議が必要になります。所在・地番・家屋番号まで書きます。
  5. 保管を「内緒」で進めようとする:相続人の1人が請求すれば、他の相続人全員に自動通知されます。隠し通すことは構造上できません。
  6. 封のある自筆証書遺言を勝手に開封する:検認前の開封は過料の対象とされています。
  7. 保管証を紛失し、家族の誰も保管番号を知らない状態にする:指定者通知の届出がなければ、遺言書が発見されないまま相続が終わるおそれがあります。
注意

「親に遺言を書いてほしい」と伝えるときは、内容への誘導と受け取られない配慮も必要です。特定の相続人が作成に深く関与した事実は、後日「不当な働きかけがあった」と争われる材料になりえます。子が関わるのは様式と段取りまで、内容は親自身が決めるという線引きを守ってください。

専門家・公的情報の見解

遺言書保管官は、遺言書の内容についての審査、相談を行うことはできません。また、この制度は、保管された遺言書の有効性を保証するものではありません。

(法務省民事局「自筆証書遺言書保管制度のご案内」2026年)

相談先主な相談内容
司法書士不動産の表示の特定、相続登記、遺言書の文案の点検
弁護士遺留分、相続人間で争いが予想される場合、遺言能力が争点になりうる場合
税理士相続税の試算、納税資金の手当て、二次相続を含めた分け方の検討
公証人公正証書遺言の作成、出張作成の可否と手数料の見積り
法務局(遺言書保管所)様式・手続の案内(内容の相談は不可)
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まとめ|今日から動かせる3つのこと

よくある質問

Q. 自筆証書遺言を法務局に預けるデメリットは何ですか?

Q. 子が親の代わりに保管を申請できますか?

Q. 親が預けているかどうか、生前に子から確認できますか?

Q. 遺言書情報証明書を請求すると、他の相続人に知られますか?

Q. 法務局に預けた遺言書は、検認が本当に不要ですか?

Q. 2026年の法改正で押印が不要になると聞きましたが、今から書く遺言はどうすればよいですか?

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