「親に遺言を書いてほしいけれど、自宅のタンス保管では紛失や書き換えが心配」——親の相続や実家の整理に向き合う40〜60代の方へ、まず結論からお伝えします。
自筆証書遺言書保管制度とは、遺言者本人が書いた自筆証書遺言の原本を法務局(遺言書保管所)が預かり、原本と画像データで長期保管する公的制度です。手数料は保管申請1通3,900円で、相続開始後の家庭裁判所の検認が不要になります(法務省「01 遺言書保管制度とは?」2026)。
ただし、この制度には解説記事があまり書かない前提条件があります。保管申請は遺言者本人が法務局へ出頭することが絶対条件で、代理申請も郵送申請もできません(法務省「02 遺言書の保管申請」2026)。つまりこれは、親が自分の足で法務局まで行けるうちにしか使えない制度です。親が入院・施設入所・判断能力の低下に至った時点で、選択肢からは外れます。
そこで本記事は、制度の一般解説ではなく「親に遺言を遺してもらいたい子世代」の実行計画として、〈①申請前〉〈②保管中〉〈③親の死後〉の3フェーズで実際に発生する費用・書類・行動を洗い出します。
まず要点を30秒で確認できる表にまとめます。
| 知りたいこと | 答え |
|---|---|
| 何をしてくれる制度? | 法務局が自筆証書遺言の原本+画像データを保管(原本50年・データ150年) |
| いくらかかる? | 保管申請は1通3,900円(以後の保管料・変更届出・撤回は無料) |
| 検認は必要? | 不要。ただし戸籍集めは消えない(後述) |
| 誰が申請する? | 遺言者本人のみ。代理・郵送・法務局の出張は不可 |
| 内容の有効性は保証される? | いいえ。チェックは様式の外形のみ |
| 親の死後、子がいくら払う? | 保管事実証明書800円+情報証明書1,400円=2,200円〜 |
| 生前+死後の合計は? | モデルケースで8,900円(後述の計算例) |
| 使えなくなるのはいつ? | 親が出頭できなくなった時点(→公正証書遺言へ) |
| デジタル遺言を待つべき? | 「保管証書遺言」は遅くとも2029年6月までに施行。待てるかは親の年齢次第 |
本記事は2026年8月時点の公表情報に基づく一般的な解説です。遺言の有効性や個別の手続きはご事情により異なります。最終判断は司法書士・弁護士・税理士など専門家にご相談ください。
自筆証書遺言書保管制度とは?(定義・仕組み・利用実績)
自筆証書遺言書保管制度とは、法務局が自筆証書遺言の原本を預かり、家庭裁判所の検認を不要にする公的な保管制度です。
あらためて一文で定義すると、「自筆証書遺言書保管制度とは、遺言者本人が法務局(遺言書保管所)に出向いて自筆証書遺言の原本を預け、原本と画像データの形で保管してもらう制度」です。2020年(令和2年)7月10日に始まりました。法務省(2026)によると、原本は遺言者の死亡後50年間、画像データは150年間保管され、相続開始後の家庭裁判所の検認は不要となります。
仕組みは「生前に親が預ける → 死後に子が証明書を受け取る」の二段構えです。
- 生前: 親本人が管轄の遺言書保管所に予約のうえ出頭し、様式の外形チェックを受けて原本を預け、保管証を受け取る
- 死後: 相続人等が「遺言書保管事実証明書」で有無を確認し、「遺言書情報証明書」を取得して、検認なしで名義変更等へ進む
この「預ける人(親)と使う人(子)が別」という構造こそ、子世代が制度を先に理解しておくべき理由です。親が預けた事実を子が知らなければ、制度は機能しません。
どのくらい使われている制度なのか(公式統計)
法務省民事局「遺言書保管制度の利用状況」(2026)によると、制度開始から令和8年7月までの累計実績は次のとおりです。
| 項目 | 累計件数 |
|---|---|
| 遺言書の保管申請 | 127,253件(うち現に保管中126,976件) |
| 直近1か月(令和8年7月)の保管申請 | 2,532件 |
| 相続人等による遺言書情報証明書の交付請求 | 12,890件 |
| 相続人等による遺言書保管事実証明書の交付請求 | 17,203件 |
| 相続人等による遺言書の閲覧請求 | 101件 |
この表で最も注目すべきは、「遺言書保管事実証明書」の交付請求(17,203件)が「遺言書情報証明書」の交付請求(12,890件)を約4,300件も上回っている点です。事実証明書は「そもそも遺言が預けられているか」を確かめる書類、情報証明書は「中身を使う」書類ですから、遺言の有無を探しに行ったものの、自分が関係する遺言は無かった(または探し当てられなかった)ケースが相当数あることがうかがえます。
つまり実務では「預けたのに見つけてもらえない」「あるかどうか分からず探し回る」ほうが起きています。本記事が後半で指定者通知の設計に多くを割くのは、この差分がその重要性を示しているからです。
なお申請件数は明確な増加局面にあります。法務省民事局(2026)の月次データでは、令和4年は月1,000〜1,600件台で推移していたのに対し、令和8年は1月1,886件→3月2,276件→6月2,509件→7月2,532件と月2,000件超が定着し、制度開始直後の令和2年7月(2,608件)に迫る水準に戻っています。
一方、日本公証人連合会(2026)によると、令和7年(2025年)の遺言公正証書の作成件数は123,891件でした(令和6年128,378件、令和5年118,981件)。保管制度の累計6年分と、公正証書のわずか1年分がほぼ同数という規模感です。金額の安さにもかかわらず利用が広がりきらない理由は、次章で説明する「本人出頭」の壁にあります。
【フェーズ①申請前】親が「今」出頭できるかどうかが唯一の分岐点

保管申請は本人出頭・代理不可・郵送不可・予約必須のため、親の外出可否が制度を使えるかどうかを決めます。
法務省「02 遺言書の保管申請」(2026)によると、保管申請には次の条件があります。
- 遺言者本人が必ず遺言書保管所へ出頭する(代理人申請・郵送申請は不可)
- 保管申請・閲覧・撤回のすべての手続で事前予約が必須
- 添付書類は本籍・筆頭者の記載がある住民票の写し(マイナンバーの記載なし)と、顔写真付きの本人確認書類
この「本人出頭」が、公正証書遺言との決定的な分岐点です。公正証書遺言なら公証人が自宅や病院へ出張できますが、遺言書保管所の職員が出張することはありません。
つまり、費用の安さで保管制度を選ぶ判断は、「親が元気なうちしか成立しない」という時間制限つきです。
子は同席できる?当日の段取りで押さえる3点
子が段取りする立場で気になるのは「自分は何をどこまでできるのか」です。制度上の役割分担を整理します。
| 場面 | 子ができること | 子ができないこと |
|---|---|---|
| 予約 | 予約手続の代行・付き添いの調整 | — |
| 書類準備 | 住民票の取得補助、様式チェック、収入印紙の購入 | 遺言の全文を代筆すること(全文自書が要件) |
| 当日の窓口 | 法務局までの送迎・建物内までの同行 | 申請そのもの(本人が手続する必要があります) |
| 提出書類の事前確認 | メール事前チェックの活用(後述) | — |
実務上のポイントは、「行けるうちに行く」段取りを子が組むことに尽きます。とくに遠方に住む親の場合、予約日と帰省日を合わせる調整が必要になるため、思い立ってから実行まで数か月かかることも珍しくありません。
なお法務省(2026)によると、令和8年(2026年)2月2日から、提出書類を電子メールで事前チェックできる遺言書保管所が39都道府県・68保管所に拡大しました。オンライン手続の試行は令和7年3月10日の東京法務局本局での開始から約1年で全国規模に広がっています。高齢の親を窓口へ連れて行って書類不備で出直し、という最悪のパターンを事前に潰せるようになった点は、子世代にとって実利の大きい変化です。予約前に管轄保管所が対象かどうかを確認してください。
管轄はどこ?「実家の所在地」でも申請できます
法務省「02 遺言書の保管申請」(2026)によると、保管申請ができるのは次の3か所のいずれかを管轄する遺言書保管所です。
| 選べる管轄 | 40〜60代の子にとっての使いどころ |
|---|---|
| 遺言者の住所地 | 最も基本。親の自宅から近い所を選ぶ |
| 遺言者の本籍地 | 親が本籍地の近くに住んでいる場合 |
| 遺言者が所有する不動産の所在地 | 実家が遠方にある場合、実家の所在地で申請できる |
見落とされがちなのが3つ目です。実家整理に直面する世帯では、「親はすでに子と同居または施設近くへ転居済みだが、実家(不動産)は地方に残っている」という形がよくあります。この場合、親の現住所地だけでなく実家の所在地の保管所も選べるため、たとえば「帰省のついでに実家近くの法務局で預ける」という段取りが可能になります。
ただし選択には注意点があります。原本の閲覧と保管申請の撤回は、原本を預けた保管所でしかできません(証明書の交付請求とモニターによる閲覧は全国どこの保管所でも可能)。書き直す可能性が高いなら、遠方の実家所在地ではなく通いやすい保管所を選ぶほうが無難です。また、申請後に親が転居した場合は変更の届出が必要になります(次章)。
【フェーズ②保管中】ここが最大の盲点。転居したら「変更届出」が必要です
預けた後も、親の住所・氏名・本籍が変わったら変更届出をしないと、死亡時の通知が届かなくなるおそれがあります。
多くの解説記事は「預けたら安心」で話を終えますが、実際には保管中にも管理義務が発生します。とくに実家を売却して親が転居する、施設に住民票を移すといった40〜60代に典型的な出来事は、そのまま届出のトリガーです。
| 保管中に起きること | 必要な対応 | 手数料 |
|---|---|---|
| 親が転居した(住所変更) | 変更の届出 | 無料 |
| 親が氏名を変更した | 変更の届出 | 無料 |
| 本籍が変わった | 変更の届出 | 無料 |
| 指定者通知の相手が先に亡くなった | 指定者の変更届出 | 無料 |
| 遺言の内容を書き直したい | 撤回して書き直す(原本を預けた保管所でのみ) | 無料 |
変更届出そのものは無料ですが、届出をしない限り保管所の記録は更新されません。ここで問題になるのが、次に説明する「指定者通知」です。
指定者通知の3名は誰にすべきか——「申出制」という落とし穴
法務省(2026)によると、通知には性質の異なる2種類があります。
| 通知の種類 | 発動条件 | 誰に届くか |
|---|---|---|
| 指定者通知 | 戸籍担当部局との連携で保管所が遺言者の死亡を確認したとき(遺言者が生前に申し出た場合のみ) | 遺言者があらかじめ指定した最大3名 |
| 関係遺言書保管通知 | 相続人等の誰か1人が閲覧または証明書の交付を受けたとき | その他の関係相続人等全員 |
多くの記事はこの2つを並べて終わりますが、実務で決定的に重要なのは次の一点です。
指定者通知は自動ではなく「申出制」です。 つまり親が保管申請時に申し出なければ、親が亡くなっても法務局から誰にも連絡は行きません。そして関係遺言書保管通知は「相続人の誰かが自分から動いて初めて発動する」受動的な仕組みですから、誰も遺言の存在を知らなければ、通知は永久に飛ばないことになります。先ほど見た「事実証明書17,203件 > 情報証明書12,890件」という差は、まさにこの構造の帰結だと考えられます。
そこで、令和5年10月2日から指定者を最大3名まで指定できるようになった(法務省 2026)この枠を、どう使い切るかが設計の勘所になります。上位の解説記事は「3名まで指定できます」で止まりますが、本記事は枠の割り当て方まで踏み込みます。
指定者3枠の推奨配分(考え方の一例)
| 枠 | 推奨する指定先 | 理由 |
|---|---|---|
| 1枠目 | 実際に手続を担う子(段取り役) | 通知を受けて最初に動く人。同居・近居の子が適任 |
| 2枠目 | 別の相続人(配偶者・他のきょうだい) | 1枠目が先に亡くなる/連絡不通になるリスクの分散 |
| 3枠目 | 遺言執行者または依頼している専門家(司法書士・弁護士等) | 家族が全員高齢化・疎遠でも、第三者が確実に動ける |
枠の設計で避けたいのは、3枠すべてを同世代のきょうだいで埋めることです。親の死亡時に全員が高齢または遠方という事態が起こり得ます。年齢層と立場を分散させ、少なくとも1枠は「必ず動く立場の人」に割り当てておくと、通知が空振りになりにくくなります。
そして冒頭の変更届出に戻ります。指定者が先に亡くなった、連絡先が変わった、親自身が転居した——このいずれかが起きたのに届出をしていなければ、せっかくの3枠は機能しません。「預けて終わり」ではなく、年に一度は保管証を家族で確認する運用にしておくことをおすすめします。
【フェーズ③親の死後】検認は消えても、戸籍集めは消えません
検認は不要になりますが、証明書の交付請求には相続人全員を明らかにする戸籍一式が必要で、戸籍収集の手間自体は残ります。
ここが本記事で最もお伝えしたい点です。多くの記事は「検認不要=死後がラク」で終わりますが、法務省「05 証明書について」(2026)によると、遺言書情報証明書の交付請求は法定相続人・受遺者・遺言執行者(関係相続人等)が行え、次の書類が必要です。
- 法定相続人全員の住所が記載された法定相続情報一覧図の写し(発行から3か月以内)
- または、これがない場合は遺言者の出生から死亡までの一連の戸籍謄本等
- 請求者の住所を証する書面 等
つまり、「家庭裁判所への検認申立て」という手続は消えますが、その前提だった戸籍収集はほぼ丸ごと残ります。保管制度で削減できるのは、主に「検認申立て→期日指定→相続人への呼出し→検認済証明書の取得」という数週間〜1か月規模の裁判所プロセスであって、戸籍を集める作業そのものではありません。
ちなみに最高裁判所「司法統計年報(家事編)」(2024)によると、家庭裁判所の遺言書検認件数は令和5年で22,314件(令和4年20,500件、令和3年19,576件)。保管制度を使えば、この手続の列に並ばずに済みます。
遺言書保管事実証明書の落とし穴:「なし」でも安心はできない
もう1つ、実家整理で遺言を探す方に致命的な仕様があります。
遺言書保管事実証明書が証明するのは、「請求者自身が相続人・受遺者・遺言執行者等になっている遺言書」が保管されているか否かだけです。
この仕様から、次の2点に注意が必要です。
- 請求者が関係者になっていない遺言書が保管されていても、証明書には「ない」と出ます。相続人以外の立場で請求して「保管されていない」という結果が出ても、他の内容の遺言書が存在する可能性は残ります
- 公正証書遺言と自宅保管の遺言は、この証明書ではまったく分かりません。公正証書遺言は公証役場の遺言検索システムで別途照会し、自宅保管分は実家を物理的に探すしかありません
手数料は1通800円です。「800円で全部の遺言が調べられる」わけではない、と理解して使ってください。
相続開始から遺言を使い始めるまで、実費はいくらかかるか(計算例)
生前の3,900円に加えて、相続開始後に相続人側が5,000円前後を負担するため、標準的なケースの総額は8,900円前後になります。
上位の解説記事は「3,900円 vs 公正証書は数万円」で比較を終えますが、実際に家計から出ていくお金は、生前の申請費用だけではありません。相続が起きた後に、子の側が証明書代を払います。ここを合算した「生涯総コスト」で見るのが正しい比較です。
モデルケース:父が死亡。相続人は母と子2人の計3人。手続対象は金融機関2行+実家不動産1件の名義変更。
| 段階 | 手続 | 単価 | 数量 | 小計 |
|---|---|---|---|---|
| 生前 | 保管の申請 | 3,900円 | 1件 | 3,900円 |
| 死後 | 遺言書保管事実証明書(遺言の有無を確認) | 800円 | 1通 | 800円 |
| 死後 | 遺言書情報証明書(金融機関2行+登記申請用) | 1,400円 | 3通 | 4,200円 |
| 合計 | 8,900円 |
※手数料はすべて法務省「09 手数料」(2026)の公表額です。これに加えて、法定相続情報一覧図を作らない場合は出生から死亡までの連続戸籍・相続人全員の戸籍等の実費(自治体により異なります)が必要になります。
証明書の通数は「提出先の数+1」で見積もるのが実務的です。金融機関は原本の返却に応じることもありますが、複数行を並行して進めるなら通数を確保したほうが早く終わります。
公正証書遺言との損益分岐は財産額で変わる
公正証書遺言の手数料は相続人ごとの取得額で決まるため、財産が増えるほど差が開きます。同じ「母+子2人」の前提で、財産額別に概算します。
| 遺産総額 | ①保管制度(生涯総額) | ②公正証書遺言(作成時の目安) | 差額 |
|---|---|---|---|
| 1,000万円 | 約8,900円 | 数万円規模 | 数万円 |
| 3,000万円 | 約8,900円 | 数万円規模 | 数万円 |
| 5,000万円 | 約8,900円 | 取得額が上がるほど増加 | 拡大 |
※公正証書遺言の手数料は公証人手数料令に基づき相続人ごとの取得額で算定され、これに遺言加算・正本謄本代・証人費用等が加わります。金額は改定される場合があるため、具体的な見積もりは公証役場に直接ご確認ください。本記事では確定額の提示は控えます。
この差をどう読むか。 単純に「保管制度が安い」と結論づけるのは早計です。差額は、「親が入院・施設入所して法務局へ行けなくなっても、公証人が出張して作れる」という可能性に対する保険料でもあります。
親が健康で、内容もシンプルなら①で十分です。しかし親の体調に少しでも不安があるなら、②の価格は「高い」ではなく「間に合う」の対価として評価するのが実務的な判断だと考えられます。
今すぐ預ける?デジタル遺言(保管証書遺言)を待つ?5問の判定チャート
出頭可否・自書可否・不動産の所在・通知先の確定・待てる年数の5点を順に確認すれば、今動くか待つかが決まります。
2026年6月にデジタル遺言(保管証書遺言)の創設が決まったことで、「今3,900円で預けるべきか、新制度を待つべきか」という新しい迷いが生まれています。上から順に答えてください。各終点に「次にやること1つ」を付けています。
Q1. 親は遺言の全文・日付・氏名を自分の手で書けますか?
- No → 自筆証書遺言は作れません。公正証書遺言へ(自書は不要です)
- 次にやること: 財産の概要をメモにまとめ、公証役場の相談予約を取る
- Yes → Q2へ
Q2. 親は予約をとって自分で法務局(遺言書保管所)へ出頭できますか?(代理・郵送・出張はいずれも不可/法務省「02 遺言書の保管申請」2026)
- No → 保管制度は選べません
- 選択肢A: 公正証書遺言(公証人の出張作成)で今すぐ確定させる
- 選択肢B: 保管証書遺言(出頭不要の方向で検討中)の施行を待つ。ただし施行は遅くとも2029年6月で、それまで最長3年の空白期間が生じます。その間に相続が起きれば遺言は無い状態です
- 次にやること: 最寄りの公証役場に電話し、出張作成の可否と費用を確認する
- Yes → Q3へ
Q3. 相続財産に実家などの不動産がありますか?
- Yes → 保管申請先を「不動産の所在地の法務局」にできます(法務省「02 遺言書の保管申請」2026)
- 親が実家から離れて暮らしていても、帰省に合わせた段取りが組めます
- 次にやること: 実家の所在地を管轄する遺言書保管所を調べ、予約可能日を確認する
- No → Q4へ(住所地または本籍地の保管所を選びます)
Q4. 死亡時に通知を受け取ってほしい相手が、3人以内で決まっていますか?
- Yes → 保管申請時に指定者通知を最大3名で申し出る
- 次にやること: 3名の氏名・住所・生年月日を確定し、申請書に記載してもらう
- No → 危険信号です。申出をしなければ、親の死亡時に法務局から誰にも自動連絡は行きません。誰も動かなければ遺言は預けられたまま「空振り」になります
- 次にやること: まず段取り役の子1名だけでも決めて、指定者に入れてもらう
Q5. 親の年齢・健康状態から見て、2029年6月まで待てますか?
- No(待てない) → 今、3,900円で預けるのが結論
- 次にやること: 管轄の遺言書保管所に予約を入れ、住民票(本籍・筆頭者入り)を取得する
- Yes(数年単位で余裕がある) → 保管証書遺言の施行を待つ選択肢もあります
- ただし施行日は「公布から3年を超えない範囲内で政令で定める日」であり、前倒しも後ろ倒しも制度上あり得ます。待つ場合も、現行制度でいったん預けておき、新制度の施行後に切り替える(撤回は無料)ほうがリスクは小さくなります
- 次にやること: 法務省の該当ページをブックマークし、施行日の公表を待つ
迷った場合は、家族構成と財産の概要を伝えて司法書士・弁護士に確認するのが安全です。
2026年の制度改正:「保管証書遺言」(デジタル遺言)の創設で何が変わるか
2026年6月に改正法が公布され、電子データで作成して公的機関が保管する新方式が創設されます。施行は遅くとも2029年6月です。
法務省(2026)によると、「保管証書遺言」を創設する民法等の改正法が令和8年(2026年)6月17日に成立し、6月24日に公布されました(令和8年法律第45号)。パソコンやスマートフォン等で作成した遺言について、公的機関が本人確認・真意確認をしたうえで保管する新しい方式です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 新方式の名称 | 保管証書遺言(いわゆるデジタル遺言) |
| 公布日 | 2026年6月24日(令和8年法律第45号) |
| 施行時期 | 公布の日から起算して3年を超えない範囲内で政令で定める日=遅くとも2029年6月 |
| 作成方法 | パソコン・スマートフォン等で作成し、公的機関が本人確認・真意確認のうえ保管 |
| 現行保管制度への影響 | 出頭や書類提出を要さずに保管申請等を行える方向で見直しが盛り込まれています |
また法務省 法制審議会民法(遺言関係)部会の資料(2026)では、既存の法務局保管制度についても出頭・書類提出を要しない方向での見直しが示されています。本記事が繰り返し指摘してきた「本人出頭の壁」は、将来的に緩和される見込みです。
手続面ではすでに動きが始まっています。
- 令和8年(2026年)3月2日、「法務局における遺言書の保管等に関する省令」の一部改正省令が施行され、法務省は「遺言書保管制度がさらに利用しやすくなりました」と告知しました。同日付で民事局長通達(法務省民商第30号)も発出されています
- 令和8年(2026年)2月2日から、提出書類を電子メールで事前チェックできる遺言書保管所が39都道府県・68保管所に拡大しました
では待つべきか。 判断軸は2つです。第一に、施行は「3年を超えない範囲内」であって、具体的な日はまだ政令で定められていません。第二に、待っている間に相続が起きれば、遺言が無い状態で遺産分割協議に入ることになります。前章のQ5で確認したとおり、親の年齢・健康状態が判断を決めます。現行制度で預けても撤回は無料ですから、「いったん預けて、新制度が使えるようになったら切り替える」という進め方が、空白期間を作らない現実的な解だと考えられます。
手数料の全体像(2026年8月時点)
保管申請は1通3,900円、変更届出と撤回は無料、死後の証明書は800円と1,400円です。
法務省「09 手数料」(2026)によると、手数料は次のとおりで、いずれも収入印紙で納付します。保管そのものに月額・年額の保管料はかかりません。
| 手続き | 手数料 | 誰がいつ使うか |
|---|---|---|
| 保管の申請 | 3,900円(遺言書1通につき) | ①申請前:親が生前に。以後の保管料は無料 |
| 住所等の変更届出 | 無料 | ②保管中:親の転居・改姓・本籍変更時 |
| 保管申請の撤回 | 無料 | ②保管中:書き直すとき(預けた保管所のみ) |
| 閲覧(モニター) | 1回1,400円 | ②③:全国どの保管所でも可 |
| 閲覧(原本) | 1回1,700円 | ②③:預けた保管所でのみ |
| 申請書等・撤回書等の閲覧 | 1件1,700円 | ②③:申請時の書類を確認するとき |
| 遺言書保管事実証明書 | 1通800円 | ③死後:子が有無を確認 |
| 遺言書情報証明書 | 1通1,400円 | ③死後:子が相続手続きで使用 |
金額は改定される場合があるため、申請前に法務局の公式案内で最新額をご確認ください。
最大の落とし穴:法務局は「内容の有効性」を審査しません
保管所が確認するのは様式の外形だけで、内容の有効性・遺言能力・遺留分への配慮は審査対象外です。
保管制度を使っても、内容が原因で無効になったり争いになったりするリスクはそのまま残ります。法務局は内容についての相談にも応じません。火種になりやすい記載例を挙げます。
| 記載例 | 何が問題か |
|---|---|
| 「自宅は長男に任せる」 | 「任せる」が相続させる趣旨か管理を頼む趣旨か、解釈が割れる |
| 「預金は子どもたちで仲良く分けてほしい」 | 割合が特定されず、結局は遺産分割協議が必要になる |
| 「〇〇銀行の預金を長女に」 | 支店・口座が特定されず、金融機関の手続きに支障が出るおそれ |
| 特定の子に全財産を相続させる | 他の相続人の遺留分を侵害し、金銭請求の紛争になりやすい |
こうした表現でも、様式(日付・署名・余白)が整っていれば保管所は受け付けます。「預かってもらえた=内容も大丈夫」ではないことを、親子で共有しておいてください。財産や家族関係が複雑な場合は、預ける前に専門家の文案チェックを受けることを強くおすすめします。
3フェーズ実行チェックリスト(保存版)
申請前は様式と持ち物、保管中は届出トリガー、死後は証明書2種の順に進めれば漏れがありません。
【フェーズ①申請前:親が窓口に行くまでに】
様式(法務省「03 遺言書の様式等についての注意事項」2026)
- [ ] 用紙はA4サイズ
- [ ] 余白は上5mm・下10mm・左20mm・右5mm以上を確保(余白に文字がはみ出すと受け付けられません)
- [ ] 複数ページは「1/2」「2/2」形式のページ番号を余白内に記載
- [ ] ホチキス等で綴じない(スキャナで画像データ化するため、バラのまま提出)
- [ ] 日付は年月日を特定して記載
- [ ] 全文・日付・氏名は遺言者本人の自書(財産目録の扱いは事前に法務局の案内で確認)
持ち物・手続き
- [ ] 本籍・筆頭者の記載がある住民票の写し(マイナンバーの記載なし)
- [ ] 顔写真付きの本人確認書類(マイナンバーカード・運転免許証など)
- [ ] 収入印紙3,900円分
- [ ] 管轄は住所地・本籍地・所有不動産の所在地の3択(実家の所在地でも申請可)
- [ ] 事前予約は必須
- [ ] 39都道府県・68保管所では提出書類のメール事前チェックも利用可(2026年2月から)
通知の設計
- [ ] 指定者通知(最大3名)を必ず申し出てもらう(申出がないと死亡時に誰にも連絡が行きません)
- [ ] 3枠は段取り役の子+別の相続人+執行者/専門家で分散させる
- [ ] 保管証の保管場所と保管番号を家族で共有
【フェーズ②保管中:この出来事が起きたら届出】
- [ ] 親が転居した → 変更の届出(無料)
- [ ] 親の氏名・本籍が変わった → 変更の届出
- [ ] 届出をしないと記録が更新されない=指定者通知の前提が古いまま
- [ ] 指定者通知の相手が先に亡くなったら指定者を差し替える
- [ ] 原本の閲覧・保管申請の撤回は、預けた保管所限定
- [ ] 年1回、保管証と指定者の顔ぶれを家族で棚卸しする
【フェーズ③親の死後:子がやること】
- [ ] 遺言書保管事実証明書(800円)を請求して有無を確認
- ※請求者自身が相続人等になっている遺言書しか対象になりません
- ※公正証書遺言は公証役場で、自宅保管分は実家で別途調査が必要です
- [ ] 遺言書情報証明書(1,400円×必要通数)を請求
- 必要書類: 法定相続人全員の住所が記載された法定相続情報一覧図の写し(発行から3か月以内)、またはこれがない場合は遺言者の出生から死亡までの一連の戸籍謄本等+請求者の住所を証する書面 等(法務省「05 証明書について」2026)
- 通数の目安は「提出先の数+1」
- [ ] 検認は不要。証明書をそのまま相続登記・金融機関の手続きへ
- [ ] 注意: 誰か1人が閲覧・交付を受けると他の関係相続人全員に関係遺言書保管通知が届きます。疎遠な相続人がいる場合は、連絡が行く前提で段取りを組んでください
親への切り出し方
「財産の話」ではなく「手続きの話」から入ると、警戒されずに伝わります。
- 避けたい例: 「遺言を書いてよ」(財産を狙っていると受け取られかねません)
- おすすめの例: 「遺言って今は法務局が3,900円で預かってくれて、家庭裁判所の手続き(検認)もいらなくなるらしいよ。残された側がすごく楽になるみたい」
国の機関が預かるという中立性と、「残された家族の負担軽減」を主語にすると切り出しやすくなります。そのうえで、「通知先を3人まで指定できるから、私の名前も入れておいてね」と一言添えてください。指定者通知は申し出なければ機能しないため、この一言が制度を実際に動かす最大のポイントです。
関連記事
次に読むと、この記事の判断がしやすくなります。
- 相続税対策|2026年8月版・まだ間に合う対策と終わった対策
- 遺産分割協議 やり方|4つの期限から逆算する7ステップ【2026年版】
- 【2026年版】実家を売却する方法6ステップ|相続・税金で損しない手順
よくある質問
自筆証書遺言保管制度とは、ひとことで言うと何ですか?
遺言者本人が法務局(遺言書保管所)に出向いて自筆証書遺言の原本を預け、原本と画像データで保管してもらう公的制度です。2020年7月10日に開始し、原本は死亡後50年間、画像データは150年間保管されます。最大の効果は相続開始後の家庭裁判所の検認が不要になることです。制度開始から令和8年7月までの累計保管申請は127,253件(法務省民事局 2026)。なお「自筆証書遺言書保管制度」が法務省の用いる正式な名称です。
遺言書 法務局 保管の手数料はいくらですか?
保管申請が1通3,900円で、以後の保管料は無料です。住所等の変更届出と保管申請の撤回は無料。死後に相続人が使う証明書は遺言書保管事実証明書800円・遺言書情報証明書1,400円、閲覧はモニター1回1,400円・原本1回1,700円、申請書等の閲覧は1件1,700円です。いずれも収入印紙で納付します(法務省「09 手数料」2026)。生前3,900円+死後5,000円前後=総額8,900円前後が標準的なケースの目安です。
遺言書保管制度のデメリットは何ですか?
主に次の6点です。①内容の有効性は審査されない(チェックは様式の外形のみで、法務局は内容の相談にも応じません)、②遺言者本人の出頭が必須で代理・郵送・出張が使えず、親が入院・施設入所すると利用できなくなる、③様式が厳格(A4・余白・ホチキス不可)、④検認は不要になっても戸籍収集は残る、⑤保管後の住所変更等は自分で届け出る必要がある(届出をしないと記録が更新されません)、⑥指定者通知は申出制で、申し出なければ死亡時に誰にも自動連絡が行きません。
遺言書保管制度の必要書類を教えてください
申請時(親): ①自筆証書遺言の原本(A4・所定の余白・ホチキス留めなし)、②本籍・筆頭者の記載がある住民票の写し(マイナンバーの記載なし)、③顔写真付きの本人確認書類、④収入印紙3,900円分、⑤申請書(法務省の様式)。死後(子): 遺言書情報証明書の請求には法定相続人全員の住所が記載された法定相続情報一覧図の写し(発行から3か月以内)、またはこれがない場合は遺言者の出生から死亡までの一連の戸籍謄本等と、請求者の住所を証する書面等が必要です(法務省「05 証明書について」2026)。2026年2月からは39都道府県・68保管所で提出書類のメール事前チェックが利用できます。
遺言書保管事実証明書と遺言書情報証明書は何が違いますか?
遺言書保管事実証明書(800円)は「遺言書が預けられているかどうか」だけを証明する書類で、内容は分かりません。しかも請求者自身が相続人・受遺者・遺言執行者等になっている遺言書しか対象にならない点に注意が必要です。一方遺言書情報証明書(1,400円)は遺言書の画像情報を含む証明書で、これを使って検認なしに相続登記や預貯金の手続きを進めます。実務では「事実証明書で有無を確認 → 情報証明書を取得」の順に使います。累計の交付請求件数は事実証明書17,203件・情報証明書12,890件です(法務省民事局 2026)。
検認が不要なら、死後の手続きはかなり楽になりますか?
家庭裁判所への検認申立てが不要になるため、数週間〜1か月規模の裁判所プロセスは省けます(検認は令和5年に全国で22,314件/最高裁判所 司法統計年報)。ただし戸籍集めは省けません。法務省「05 証明書について」(2026)によると、証明書の交付請求には法定相続情報一覧図の写し(3か月以内)、またはこれがない場合は出生から死亡までの一連の戸籍謄本等が必要です。「検認は消えるが戸籍収集は消えない」と理解しておくと、相続開始後に慌てずに済みます。
入院中・施設入所の親でも利用できますか?
利用できません。保管申請は遺言者本人の出頭が必須で、代理申請・郵送申請はできず、法務局職員が出張することもありません(法務省「02 遺言書の保管申請」2026)。外出が難しい場合は、公証人が病院や施設へ出張できる公正証書遺言が現実的な選択肢になります。将来的には保管証書遺言(デジタル遺言)や現行制度の見直しで出頭が不要になる方向ですが、施行は遅くとも2029年6月で、それまでの空白期間は埋まりません。親が自分で窓口へ行けるうちにしか使えない制度である点を、早めに家族で共有しておいてください。
保管証書遺言(デジタル遺言)とは何ですか?待つべきですか?
保管証書遺言とは、パソコンやスマートフォン等で作成した遺言を、公的機関が本人確認・真意確認をしたうえで保管する新しい遺言方式です。2026年6月17日に成立し、6月24日に公布されました(令和8年法律第45号)。施行は「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」とされ、遅くとも2029年6月までに施行されます(法務省 2026)。待つべきかは親の年齢・健康状態次第です。待っている間に相続が起きれば遺言は無い状態になるため、現行制度でいったん3,900円で預け、新制度の施行後に切り替える(撤回は無料)進め方が空白を作りません。
引っ越したら何か手続きが必要ですか?
必要です。住所・氏名・本籍が変わったら「変更の届出」を提出してください(手数料無料)。届出をしない限り保管所の記録は更新されないため、死亡時の指定者通知が正しく機能しなくなるおそれがあります。実家の売却や施設への住民票の異動は、そのまま届出のトリガーだと考えてください。指定者に指定した方が先に亡くなった場合も、指定者の変更届出が必要です。
遺言書はどこの法務局に預ければよいですか?
遺言者の住所地・本籍地・所有する不動産の所在地のいずれかを管轄する遺言書保管所から選べます(法務省「02 遺言書の保管申請」2026)。実家など遠方に不動産がある場合、その所在地の保管所を選べるため、帰省に合わせた段取りが可能です。ただし原本の閲覧と保管申請の撤回は、預けた保管所でしかできません(証明書の交付請求とモニター閲覧は全国どこでも可)。書き直す可能性があるなら通いやすい保管所を選ぶほうが無難です。
---
本記事は2026年8月時点の公表情報に基づきます。手数料・様式・オンライン対応の範囲・改正法の施行日は変更される場合があるため、最新情報は法務省・法務局の公式案内(自筆証書遺言書保管制度のページ)および公証役場でご確認ください。遺言の内容設計や有効性の判断、相続税の見通しについては、司法書士・弁護士・税理士など専門家への相談をおすすめします。




