成年後見制度とは?費用月2万円〜と実家売却の落とし穴|親の認知症対策
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成年後見制度とは?費用月2万円〜と実家売却の落とし穴|親の認知症対策

成年後見制度とは、認知症などで判断能力が不十分になった方の財産管理や契約を、家庭裁判所が関与する「後見人」が本人に代わって支援する法律上の制度です。親名義の預金が引き出せない、空き家になった実家を売却できない――そうした場面で利用を検討することになる制度で、「法定後見」と「任意後見」の2種類があります。

この記事では、親の相続や実家整理に直面する方に向けて、制度の仕組み・費用・手続きの流れに加え、「一度始めるとやめられない」「報酬負担が続く」といった利用前に知っておきたい注意点まで、最高裁判所の統計など公的情報に基づいて解説します。

結論:成年後見制度とは何か?

成年後見制度とは、判断能力が不十分な方の財産管理や契約手続きを、家庭裁判所が関与する後見人が法律的に支援する制度です。

2000年4月の民法改正で始まった制度で、認知症・知的障害・精神障害などにより判断能力が不十分になった方の権利と財産を守ることを目的としています。最高裁判所事務総局家庭局「成年後見関係事件の概況(2023年1月〜12月)」によると、2023年12月末時点の利用者は約24万9,000人、年間の申立件数は約4万件です。

親の介護や実家整理の場面で、具体的に問題になるのは次のようなケースです。

  • 親名義の定期預金を介護費用のために解約したい
  • 空き家になった実家を売却したい
  • 遺産分割協議に認知症の親が参加できない

いずれも本人の意思確認ができないと金融機関や不動産取引の手続きが進まず、成年後見制度の利用が事実上の選択肢になります。

ポイント

銀行や法務局は「家族だから」という理由では手続きに応じません。本人の判断能力が失われた後に、本人名義の資産を動かせる法的な手段が成年後見制度です。

仕組みをもう少し詳しく

仕組みをもう少し詳しく

家庭裁判所が選任した後見人が、本人に代わって財産管理と身上保護を行い、その活動を裁判所が監督する仕組みです。

後見人ができること

後見人の仕事は「財産管理」と「身上保護」の2つです。

  • 財産管理: 預貯金の管理・解約、不動産の管理・処分(居住用は裁判所の許可制)、遺産分割協議への参加、税金や施設費用の支払い
  • 身上保護: 介護サービスの契約、施設への入所契約、入院の手続きなど

後見人ができないこと

本人だけに認められる行為や事実行為は代理できません。

手術への同意(医療同意)、婚姻、遺言書の作成、実際の介護行為そのものは後見人の権限外とされています。また、食料品の購入など日用品の買い物は本人が単独ででき、取消しの対象にもなりません(民法9条ただし書)。

誰が後見人になるのか

約8割は司法書士・弁護士などの専門職が選ばれています。

前掲の最高裁統計(2023年)では、親族が後見人等に選任された割合は約18%にとどまり、多くは司法書士・弁護士・社会福祉士などの専門職です。誰を選ぶかは家庭裁判所の判断であり、候補者に挙げた家族が選ばれるとは限りません

補足

親族が選ばれやすいのは、管理する流動資産が比較的少なく、親族間に対立がないケースとされています。財産が多い場合は、専門職の選任や「後見制度支援信託・支援預金」の利用を求められることがあります。

なぜ重要なのか・背景

認知症の高齢者は2040年に約584万人に達すると推計され、本人名義の資産が動かせなくなる事例が増えているためです。

厚生労働省研究班の推計(2024年公表)によると、認知症の高齢者は2040年に約584万人、軽度認知障害(MCI)の方を合わせると1,100万人を超えるとされています。高齢者のおよそ3人に1人が該当する計算で、「親の資産が凍結される」問題は誰にでも起こり得ます。

金融機関の対応も厳格です。全国銀行協会が2021年に公表した考え方では、認知判断能力が低下した顧客の預金取引は成年後見制度の利用が基本とされ、親族による代理出金は医療費の支払いなど極めて限定的な場合に限るとされています。

注意

家族仲の良し悪しの問題ではありません。本人の意思確認ができない以上、金融機関や法務局は原則として手続きを止めます。対策をしないまま判断能力が失われると、選択肢は法定後見にほぼ一本化されます。

種類・分類

成年後見制度は「法定後見」と「任意後見」の2本立てで、法定後見はさらに後見・保佐・補助の3類型に分かれます。

法定後見と任意後見の違い

分かれ目は「判断能力が低下する前か後か」です。

項目法定後見任意後見
利用できる時期判断能力が低下した後低下する前に契約
後見人を選ぶ人家庭裁判所本人
開始の手続き家庭裁判所への申立て公正証書で契約→低下後に監督人選任を申立て
監督家庭裁判所任意後見監督人(必須)

法定後見の3類型

判断能力の程度に応じて後見・保佐・補助に分かれます。

類型対象となる状態主な権限
後見判断能力を常に欠く(重度の認知症など)財産に関する包括的な代理権・取消権
保佐判断能力が著しく不十分借入れ・不動産売買など重要な行為(民法13条1項)への同意権・取消権
補助判断能力が不十分申立てで定めた特定の行為への同意権・代理権

最高裁統計(2023年)では、申立て全体の約3分の2を「後見」類型が占めています。

ポイント

任意後見は本人が元気なうちに公正証書で契約する必要があります。すでに判断能力が失われている場合は選べず、法定後見だけが選択肢になります。

メリットを詳しく

最大のメリットは、動かせなくなった本人名義の資産を法的に有効な形で管理・処分でき、本人の権利が守られることです。

  1. 凍結資産への対応: 預金の解約・払い出し、不動産の売却などの法律行為を、本人に代わって有効に行えます。介護費用や施設入居費を本人の資産から適法に支出できます。
  2. 取消権による消費者被害の防止: 悪質商法などで結ばされた不利益な契約を取り消せます。
  3. 裁判所の監督による安心: 後見人は毎年家庭裁判所へ報告義務を負うため、親族による使い込みも含めて財産が守られます
  4. 身寄りがなくても使える: 市区町村長にも申立権があり、2023年統計では申立人の最多は市区町村長(約23%)です。
ポイント

制度の目的は「本人のお金を本人のために使う」ことです。親の介護費用を子の家計から立て替え続けている場合、その状態を解消する法的な受け皿になります。

デメリット・注意点

一度始めると原則として本人が亡くなるまでやめられず、専門職後見人への報酬が続く点が最大の注意点です。

原則として途中でやめられない

終了できるのは判断能力の回復か本人の死亡が原則です。

「実家を売るためだけに使いたい」という動機でも、売却後に後見だけを終了することはできず、原則として本人が亡くなるまで続きます。なお、2024年に法務大臣が法制審議会へ制度見直しを諮問し、必要な期間だけ利用できる仕組みなどが議論されていますが、2026年7月時点で法改正には至っていません。

報酬負担が継続する

専門職後見人には月2万〜6万円程度の報酬が続きます。

東京家庭裁判所が公表した報酬のめやす(2013年)では、基本報酬は月額2万円、管理財産1,000万〜5,000万円で月3〜4万円、5,000万円超で月5〜6万円とされています。仮に月2万円でも10年続けば約240万円です。

相続対策・柔軟な資産活用はできない

生前贈与や相続税対策のための資産組み替えは原則できません。

後見人は本人の利益のためだけに財産を管理する義務を負うため、家族への生前贈与、収益目的の不動産投資、相続税対策のための資産の組み替えは原則として認められないとされています。

実家の売却には裁判所の許可が必要

居住用不動産の処分は家庭裁判所の許可制です。

民法859条の3により、本人の居住用不動産(空き家になった元の自宅を含む)の売却・賃貸・抵当権設定には家庭裁判所の許可が必要です。売却の必要性や価格の相当性が審査され、許可のない売買は無効とされています。

注意

「預金を下ろすために後見を始めたら、想定外の負担が続いた」という声は少なくありません。申立ての前に、後述する家族信託なども含めて、司法書士・弁護士など専門家に選択肢を比較して相談することをおすすめします。

具体例・ケースで理解する

実家の売却、悪質商法の取消し、任意後見の活用という3つの典型ケースで、制度の実際の使われ方を見ていきます。

ケース1:認知症の母の実家を売却して介護費用に充てたい

後見開始と居住用不動産の処分許可の2段階が必要です。

一人暮らしだった母(80代)が特別養護老人ホームに入所し、空き家の実家を売却して入所費用に充てたいケースです。流れは、(1)長男が家庭裁判所に後見開始を申立て、(2)司法書士が後見人に選任され、(3)売買契約を結んだうえで裁判所に居住用不動産処分の許可を申立て、(4)許可後に決済・登記、となります。最高裁統計では申立てから審判まで約7割が2カ月以内ですが、売却完了までは全体で数カ月を見込む必要があります。

ケース2:父が高額なリフォーム契約を繰り返してしまう

保佐の取消権で契約被害から本人を守れます。

判断能力が著しく不十分になった父が、訪問販売で数百万円のリフォーム契約を結んでしまったケースです。保佐開始後であれば、民法13条1項の重要な行為について保佐人の同意のない契約を取り消せます。消費者被害の防止は、金銭管理と並ぶ制度の重要な機能です。

ケース3:元気なうちに任意後見契約を結んでおく

将来の後見人を自分で選べるのが任意後見の利点です。

持病のある70代の父が、長女を受任者として公正証書で任意後見契約を締結。数年後に認知症と診断された段階で、長女が家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申立てて契約が発効しました。後見人を本人が選べる点が法定後見との大きな違いですが、監督人(多くは専門職)への報酬(月1万〜2万円程度が目安とされます)は発生します。

まとめ

すでに判断能力が失われた後は法定後見、まだ元気なうちなら任意後見や家族信託と、打てる手は時期で変わります。親が元気な今のうちに選択肢を比較しておくことが、実は最大の対策です。

成年後見制度の費用はいくらかかる?

申立て時に1万〜2万円程度、鑑定が必要な場合は別途10万円前後、専門職後見人には月2万〜6万円の報酬がかかります。

費用項目金額の目安備考
申立手数料(収入印紙)800円保佐・補助で同意権・代理権を付ける場合は800円ずつ加算
後見登記手数料2,600円収入印紙で納付
郵便切手3,000〜5,000円程度家庭裁判所により異なる
診断書作成料数千円程度家裁指定の書式
鑑定費用10万円前後実施は申立て全体の約5%(最高裁統計・2023年)
専門職後見人の報酬月2万〜6万円家庭裁判所が財産額などに応じて決定

特徴は、初期費用よりも後見人報酬というランニングコストの影響が大きいことです。報酬は本人の財産から支払われますが本人が亡くなるまで続くため、総額では数百万円規模になることもあります。本人の資力が乏しい場合は、市区町村の「成年後見制度利用支援事業」による助成を使える場合があります。

補足

報酬額は家庭裁判所が個別に決定します。上記は東京家裁公表のめやす(2013年)に基づく金額で、報酬の在り方は現在見直しが議論されています。最新情報は家庭裁判所や専門家にご確認ください。

始め方・使い方:手続きはどう進める?

法定後見は、診断書の取得から家庭裁判所への申立てを経て、多くの場合2カ月以内に後見開始の審判に至る流れです。

  1. 地域包括支援センター、市区町村の中核機関、司法書士会・弁護士会の相談窓口に相談する
  2. かかりつけ医に家裁指定書式の診断書を作成してもらう(後見・保佐・補助の類型判断の資料になります)
  3. 戸籍謄本・住民票・財産目録・収支予定表などの必要書類を集める
  4. 本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てる(申立てできるのは本人・配偶者・四親等内の親族・市区町村長など)
  5. 家裁調査官による面接・調査を受ける(必要な場合のみ医師の鑑定)
  6. 審判(後見人の選任)と東京法務局への後見登記が行われる
  7. 後見人が財産目録を作成し、後見業務を開始する
ポイント

申立ては、家庭裁判所の許可がないと取り下げられません。「希望した候補者が選ばれなかったから」という理由での取下げは認められないため、申立て前の情報収集と専門家への相談が重要です。

似た用語との違い

家族信託や財産管理委任契約との最大の違いは、裁判所が関与するかどうかと、判断能力低下の前後どちらで使えるかです。

制度利用できる時期裁判所の関与費用の目安特徴
法定後見判断能力の低下後あり(選任・監督)報酬月2万〜6万円低下後でも使える唯一の制度
任意後見低下前に契約あり(監督人)契約時2万円前後+監督人報酬後見人を自分で選べる
家族信託(民事信託)低下前に契約なし初期費用50万〜100万円程度が目安相続対策・柔軟な資産活用が可能
財産管理委任契約判断能力があるうちなし契約による低下後は事実上機能しにくい
日常生活自立支援事業判断能力に不安がある段階なし(社会福祉協議会が実施)1回1,000円台程度日常的な金銭管理の支援

特に比較されるのが家族信託です。家族信託は親が元気なうちに財産の管理を家族に託す契約で、実家の売却や相続対策など柔軟な財産活用が可能ですが、判断能力が低下した後では契約できません。また、施設入所契約などの身上保護は信託ではカバーできないため、任意後見と組み合わせるケースもあります。

まとめ

すでに判断能力がない場合は法定後見が事実上の一択、まだ元気な場合は任意後見・家族信託を含めた比較検討が基本の整理です。適切な選択は財産構成と家族状況によるため、専門家への相談をおすすめします。

よくある質問

親がすでに認知症でも任意後見は使えますか?

原則として使えません。任意後見は判断能力があるうちに公正証書で契約する必要があるため、すでに判断能力が失われている場合は法定後見(後見・保佐・補助)の申立てが選択肢になります。症状が軽度であれば公証人の判断で契約できる場合もあるため、まずは専門家に相談してください。

家族が後見人になることはできますか?

可能ですが、選任するのは家庭裁判所で、統計上は約8割で専門職が選ばれています(最高裁・2023年統計では親族選任は約18%)。親族間に対立がなく、管理する財産が多額でない場合には、親族が選ばれやすいとされています。

成年後見制度は途中でやめられますか?

原則としてやめられません。本人の判断能力が回復するか、本人が亡くなるまで続きます。必要な期間だけ利用できる仕組みへの見直しが法制審議会で議論されていますが、2026年7月時点で法改正には至っていません。

申立てから利用開始までどれくらいかかりますか?

最高裁統計(2023年)では、約7割が申立てから2カ月以内に審判に至っています。診断書の取得や書類集めの期間も含めると、準備開始から後見業務のスタートまで2〜4カ月程度を見込むとよいでしょう。

後見人は本人のお金で生前贈与や相続税対策ができますか?

できないとされています。後見人は本人の利益のためだけに財産を管理する義務を負うため、相続人の利益のための生前贈与や資産の組み替えは原則として認められません。相続対策を重視する場合は、親が元気なうちの家族信託や生前贈与の検討が現実的です。

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成年後見制度は、判断能力を失った親の資産と生活を守るセーフティネットである一方、開始後の自由度は高くありません。実家の売却や介護費用の工面が目的なら、後見以外の選択肢も含めて早めに比較検討することが重要です。

注意

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律・税務判断は状況により異なります。実際の手続きの前に、司法書士・弁護士・税理士などの専門家、または家庭裁判所・法務省の公式情報をご確認ください。

最終確認日:2026年7月19日

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