生前贈与の非課税枠とは何か?(定義を先出し)
「110万円」は受贈者1人あたりの枠です
非課税枠は「1つ」ではなく複数の制度の集合です
- 暦年課税の基礎控除:年110万円
- 相続時精算課税の基礎控除:年110万円(+特別控除2,500万円)
- 住宅取得等資金の非課税:省エネ等住宅1,000万円/その他500万円
- 教育資金の一括贈与:1,500万円(学校等以外は500万円)
- 結婚・子育て資金の一括贈与:1,000万円(うち結婚関係費用300万円)
- 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与):2,000万円
扶養義務者どうしで生活費や教育費に充てるための贈与は、通常必要と認められる範囲であれば、そもそも贈与税がかかりません(国税庁 タックスアンサー No.4405)。ただし非課税となるのは必要な都度直接充てる場合に限られ、預貯金として貯めた場合や株式・不動産の購入資金に充てた場合は課税対象になるとされています。仕送りや学費の負担は、非課税枠を使うまでもない領域です。
そもそも非課税枠を使う必要はあるのか?【3問診断】

Q1:親の財産は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」を超えますか?
- 不動産:固定資産税評価額(土地は路線価評価が原則ですが、まずは概算で構いません)
- 預貯金:相続開始時点の残高
- 有価証券:時価
- 生命保険金:「500万円×法定相続人の数」を超えた部分
- 負債・葬式費用:マイナスとして差し引く
Q2:親は60歳以上ですか/今後7年以上の贈与継続は現実的ですか?
Q3:渡したい資産は現金ですか、実家の不動産ですか?
ここでの判定はあくまで概算の目安です。土地の評価は路線価や補正率によって大きく変わり、非上場株式や事業用資産がある場合はさらに複雑になります。基礎控除に近い金額の場合は、必ず税理士に個別確認をしてください。
生前贈与加算とは何か?自分の親は実質何年分かを確認する
相続開始日別の加算対象期間(年表)
| 相続開始日 | 加算対象期間 | 実質的な年数 |
|---|---|---|
| 〜令和8年12月31日 | 相続開始前3年以内 | 3年 |
| 令和9年1月1日〜令和12年12月31日 | 令和6年1月1日から死亡日まで | 3年超7年未満(徐々に伸びる) |
| 令和13年1月1日以後 | 相続開始前7年以内 | 7年 |
加算されるのは「相続で財産を取得した人」への贈与です
「孫に贈与すれば加算されない」という説明だけを頼りに実行するのは危険です。保険金の受取人設定や遺言の内容によって結論が変わるため、家族全体の財産の渡し方とセットで税理士に確認することをおすすめします。
暦年課税110万円と相続時精算課税110万円はどちらが良い?
8項目で比べる「同じ110万円」の中身
| 比較項目 | 暦年課税の110万円 | 相続時精算課税の110万円 |
|---|---|---|
| 相続財産への持ち戻し | 加算対象期間内の贈与は加算される | 基礎控除110万円部分は加算されない |
| 加算される期間 | R8末までの相続は3年/R9.1.1〜R12末はR6.1.1以降の贈与全部/R13.1.1以後は7年 | 110万円超の部分は年数無制限で全額加算 |
| 3年超7年以内の100万円控除 | あり(R9.1.2以後の相続) | なし |
| 贈与者の年齢要件 | なし | 贈与年1月1日に60歳以上 |
| 受贈者の要件 | 制限なし | 18歳以上の推定相続人である直系卑属または孫 |
| 申告義務 | 110万円以下は不要 | 110万円以下は原則不要(初回に選択届出書が必要) |
| 撤回の可否 | 毎年選び直せる | 撤回不可。以後その贈与者からの贈与は永久に精算課税 |
| 小規模宅地等の特例 | 贈与済み宅地は対象外 | 贈与済み宅地は対象外 |
| こういう人向け | 親が若く、長期にわたり計画的に渡せる家庭 | 親が高齢で、短期間にまとまった額を渡したい家庭 |
相続時精算課税の2,500万円は「非課税」ではありません
実家の贈与は非課税枠を使っても損する?【実コスト試算】
前提条件
- 実家の固定資産税評価額:2,000万円(土地1,400万円+建物600万円)
- 土地は特定居住用宅地等(330㎡以内)の要件を満たす
- 贈与は相続時精算課税を選択し、特別控除2,500万円の枠内で贈与税は0円
- 相続税の限界税率:10%〜20%を想定
A案:生前贈与した場合
| コスト項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 贈与税 | 特別控除2,500万円内 | 0円 |
| 登録免許税 | 2,000万円×2.0% | 40万円 |
| 不動産取得税(土地) | 1,400万円×1/2×3% | 21万円 |
| 不動産取得税(建物) | 600万円×3% | 18万円 |
| 小規模宅地等の特例が使えないことによる増税 | 課税価格が1,120万円分多く残る×税率10〜20% | 約112万〜224万円 |
| 合計 | 約191万〜303万円 |
B案:相続で取得した場合
| コスト項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 登録免許税 | 2,000万円×0.4% | 8万円 |
| 不動産取得税 | 相続は非課税 | 0円 |
| 小規模宅地等の特例 | 土地1,400万円→280万円(80%減額) | - |
| 合計 | 8万円 |
この試算には前提があり、結論が逆転するケースもあります。①今後大きく値上がりが見込まれる土地、②別居の子で持ち家があるなど小規模宅地等の特例の要件を満たせない場合、③収益不動産で家賃収入を早く移したい場合などです。実家の贈与を検討する際は、必ず税理士に個別試算を依頼してください。
生前贈与の非課税枠はなくなるのですか?特例の期限地図
使える・締切間近・終了の一覧(2026年時点)
| 制度 | 非課税限度額 | 期限・状況 |
|---|---|---|
| 暦年課税の基礎控除 | 年110万円 | 恒久的な制度。廃止の予定は公表されていません |
| 相続時精算課税の基礎控除 | 年110万円 | 2024年新設。恒久的な制度 |
| 教育資金の一括贈与 | 1,500万円 | 令和8年3月31日で終了。令和8年4月1日以後は新規利用不可 |
| 住宅取得等資金の贈与 | 省エネ等住宅1,000万円/その他500万円 | 令和8年12月31日までの贈与が対象 |
| 結婚・子育て資金の一括贈与 | 1,000万円(結婚関係300万円) | 令和9年3月31日まで |
| 贈与税の配偶者控除 | 2,000万円 | 婚姻期間20年以上。恒久的な制度 |
「生前贈与非課税枠の新設」はありましたか?
生前贈与の非課税枠で住宅資金を渡すときの注意点は?
見落とされやすい3つの要件
- 受贈者の合計所得金額が2,000万円以下であること(床面積40㎡以上50㎡未満の住宅の場合は1,000万円以下)
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに住宅を取得し、居住する(または確実に居住する見込みである)こと
- 贈与税が0円でも申告が必要であること。この特例は申告を要件としているため、申告しないと適用を受けられません
「非課税だから渡す」ではなく「必要だから渡す」順序で
住宅資金の援助で最も多い失敗は、親の生活資金を圧迫することです。介護費用や医療費は予測が難しく、渡した後に取り戻すことは事実上できません。渡す金額は、親の平均余命と生活費を試算したうえで決めることをおすすめします。
生前贈与を実行するときの手順と落とし穴
実行の手順
- 贈与契約書を作成する:贈与者・受贈者の署名押印、贈与日、金額、贈与財産を明記します。毎回作成するのが原則です。
- 受贈者名義の口座へ銀行振込で移す:現金手渡しは記録が残らず、贈与の事実を証明しにくくなります。
- 通帳・印鑑・キャッシュカードは受贈者が管理する:親が管理したままだと、名義だけの預金(名義預金)と判断され、相続財産に含められるおそれがあります。
- 必要に応じて贈与税の申告をする:110万円を超えた場合や特例を使う場合は、翌年2月1日から3月15日までに申告します。
- 記録を保管する:契約書・振込記録・申告書控えを一式で残します。
定期贈与とみなされないための注意
贈与税の実地調査も令和6事務年度で2,778件行われ、追徴税額は合計123億円、1件当たり443万円でした(国税庁)。また同年度の簡易な接触は21,969件(前年度比117.0%)と、公表開始の平成28事務年度以降で最高となっています。記録の残らない資金移動への接触は増加傾向にあります。
生前贈与の非課税枠と似た用語との違い
| 用語 | 意味 | 具体例 |
|---|---|---|
| 贈与税の基礎控除 | 毎年自動的に差し引かれる枠 | 暦年課税110万円、精算課税110万円 |
| 特別控除 | 累計で使える枠。使い切ると終わり | 相続時精算課税2,500万円 |
| 非課税措置(特例) | 用途を限定し申告を要件とする時限措置 | 住宅取得等資金、教育資金、結婚・子育て資金 |
| 相続税の基礎控除 | 相続税がかかるかどうかの境界線 | 3,000万円+600万円×法定相続人の数 |
| 非課税財産 | そもそも課税対象外の財産 | 扶養義務者間の生活費・教育費(都度・通常必要な範囲) |
まとめ:非課税枠の前に、まず引き算から
この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務判断を行うものではありません。税制は改正が頻繁で、適用要件も個別事情によって結論が変わります。実行の前に、必ず税理士・司法書士などの専門家にご相談のうえ、国税庁の最新情報をご確認ください。




