まな先生解説
こころ質問
すい要点整理
注意
本記事は2026年8月時点で公開されている国税庁の情報等をもとにした一般的な解説です。税額や適用可否は個々の財産構成で大きく変わります。実際の判断は必ず税理士等の専門家と、最新の一次情報でご確認ください。
相続税の延納・物納とは何か?(結論)
| 項目 | 延納 | 物納 |
|---|---|---|
| 内容 | 相続税を年賦で分割納付 | 相続財産そのもので納付 |
| 検討の順番 | 金銭一括が困難なとき | 延納によっても困難なとき |
| 期間・上限 | 原則5年、不動産等の割合により最長20年 | 期間の概念なし(納付は一回) |
| 追加負担 | 利子税がかかる | 収納までの期間に応じ利子税がかかる場合あり |
| 担保 | 原則必要(一定の場合を除く) | 不要(財産そのものを納める) |
| 申請期限 | 申告期限まで(10か月以内) | 申告期限まで(10か月以内) |
仕組みをもう少し詳しく

延納が認められる要件
- 相続税額が10万円を超えること
- 金銭で一時に納付することを困難とする事由があり、その納付を困難とする金額の範囲内であること
- 延納税額および利子税の額に相当する担保を提供すること(延納税額100万円以下かつ延納期間3年以下の場合は担保不要)
- 延納しようとする相続税の納期限または納付すべき日までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して提出すること
物納が認められる要件
審査の期間
補足
延納の申請をした後で、資力の状況が変わって延納が難しくなった場合に、申告期限から10年以内であれば延納から物納へ変更できる「特定物納制度」も設けられています。ただし対象は分納期限が未到来の税額に限られます。
なぜ重要なのか・背景
課税対象になる人は確実に増えた
財産の中身は不動産が大きい
払えないまま放置した場合の負担
注意
延滞税・利子税の割合は市中金利に連動して毎年見直されます。本記事の数値は執筆時点の目安であり、実際に適用される率は国税庁の最新公表値をご確認ください。
延納と物納にはどんな種類・分類があるのか?
延納の区分(不動産等の割合で決まる)
| 不動産等の割合 | 対象となる税額 | 延納期間(最長) | 利子税(年・本則) |
|---|---|---|---|
| 75%以上 | 不動産等に対応する税額 | 20年 | 3.6% |
| 75%以上 | 動産等に対応する税額 | 10年 | 5.4% |
| 50%以上75%未満 | 不動産等に対応する税額 | 15年 | 3.6% |
| 50%未満 | 一般の延納相続税額 | 5年 | 6.0% |
物納の順位
- 第1順位:不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等(および特定登録美術品)
- 第2順位:非上場株式等
- 第3順位:動産
延納のメリットを詳しく
資産を売り急がずに済む
資金繰りの見通しが立てやすい
途中で繰上げ返済ができる
デメリット・注意点
延納の注意点
- 担保の提供が必要です(延納税額100万円以下かつ期間3年以下を除く)。担保は原則として相続財産である必要はなく、相続人固有の財産や第三者所有の財産でも可能とされていますが、税務署が担保として不適当と判断すれば変更を求められます。
- 分納税額を期限までに納付できないと、延納の許可が取り消される場合があります。取り消されると残額を一括で納めることになり、状況はより厳しくなります。
- 利子税は必要経費にはなりません(個人の場合、原則として所得計算上控除できません)。
物納の注意点
- 担保権が設定されている不動産(抵当権付きの土地建物など)
- 権利の帰属について争いがある不動産
- 境界が明らかでない土地
- 借地権者が不明な貸地、契約内容が不明確な貸地
- 他の土地に囲まれて公道に通じない土地(囲繞地)で通行権の内容が明確でないもの
物納は「時価で引き取ってもらえる」わけではない
注意
「物納なら譲渡所得税がかからないから得」と単純化するのは危険です。超過物納(納付すべき税額を超える価額の財産を物納し差額の還付を受ける場合)では、超過部分に譲渡所得課税が生じるとされています。判断は必ず税理士にご相談ください。
具体例・ケースで理解する
ケース1:実家と少額の預金を相続した長男(50代)
- 相続財産:実家(相続税評価額4,000万円)、預貯金600万円
- 相続税額:約400万円(概算)
- 手元資金:相続人自身の預金300万円
ケース2:収益不動産中心で現金が乏しい長女(60代)
- 相続財産:アパート2棟(評価額1億2,000万円)、預貯金300万円
- 相続税額:約1,800万円
- 不動産等の割合:約97%
ケース3:買い手がつかない山林・農地を相続した次男(40代)
- 相続財産:市街化調整区域の土地、境界未確定の山林
- 相続税額:約500万円
- 手元資金:ほぼなし
| 判断軸 | 売却して納付 | 延納 | 物納 |
|---|---|---|---|
| 資産を残せるか | ×(手放す) | ○(残せる可能性) | ×(国に納める) |
| 手取りの有利さ | ○(実勢価格) | ○ | △(相続税評価額) |
| 手続きの負担 | 中 | 中 | 大 |
| 譲渡所得税 | かかる(取得費加算の特例あり) | ― | 原則かからない(超過物納部分を除く) |
| 向いているケース | 売れる不動産 | 収入で払える | 売れない不動産 |
補足
相続した不動産を相続税の申告期限の翌日から3年以内に売却した場合、支払った相続税の一部を取得費に加算できる「取得費加算の特例」があります。売却で納税する場合はこの特例の適用可否も併せて検討することになります。
始め方・使い方(手続きの流れ)
延納申請の手順
- 財産と納税資金の棚卸し(1〜3か月目):相続財産と相続人自身の資金を洗い出し、「金銭納付を困難とする理由書」で困難額を試算します。
- 税理士への相談(2〜4か月目):延納が通る見込み、期間区分、利子税額のシミュレーションを行います。
- 担保の選定(4〜7か月目):不動産、国債、有価証券、保証人の保証などから担保を決め、登記事項証明書等を集めます。
- 申請書類の作成(7〜9か月目):延納申請書、金銭納付を困難とする理由書、担保提供関係書類を作成します。
- 提出(10か月目まで):相続税の申告書と併せて、被相続人の住所地を所轄する税務署に提出します。
- 審査・許可:原則として申請期限の翌日から3か月以内に許可または却下の判断がなされるとされています。
物納申請の手順
- 物納候補財産の選定:順位と管理処分不適格性を確認します。
- 境界確定・測量の着手(最優先):数か月かかるため、相続開始直後から動きます。
- 物納申請書と物納財産目録の作成:財産ごとに必要書類が細かく定められています。
- 期限内提出:書類が揃わない場合は「物納手続関係書類提出期限延長届出書」を提出します。
- 審査・現地調査:税務署による調査が入ります。不備があれば補完通知が届き、指定期間内に補完します。
- 許可または却下:却下された場合、20日以内に再申請が1回に限り可能とされています。
注意
申請が却下された場合でも、本来の納期限からの延滞税等の負担が生じることがあります。物納一本に賭けるのではなく、売却や延納の代替案を並行して準備しておくことが実務上の安全策とされています。
相談先の選び方
似た用語との違い
| 用語 | 内容 | 延納・物納との違い |
|---|---|---|
| 延納 | 相続税を分割払い | 税額は減らない。利子税がかかる |
| 物納 | 財産で納付 | 延納が困難な場合に限られる |
| 納税猶予(事業承継税制・農地) | 一定要件下で納税を猶予し、条件を満たせば免除 | 猶予・免除の制度で、分割払いではない |
| 換価の猶予 | 財産の換価(差押財産の売却)を猶予 | 滞納後の徴収手続に関する制度 |
| 相続放棄 | 相続人の地位を放棄 | 財産も債務も一切承継しない。家庭裁判所へ3か月以内 |
| 延滞税 | 期限内に納付しなかった場合の附帯税 | 制度ではなくペナルティ。利子税より高率 |




