相続税配偶者控除とは?1.6億円の使いすぎで損する境界線
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相続税配偶者控除とは?1.6億円の使いすぎで損する境界線

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相続税の配偶者控除(正式名称:配偶者の税額の軽減)とは、亡くなった方の配偶者が実際に取得した正味の遺産額のうち、「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額まで相続税がかからない制度です(国税庁 タックスアンサー No.4158、令和7年4月1日現在法令等)。税額が0円になる場合でも、相続税の申告書を提出しなければ適用されません。

ただし、この記事でお伝えしたい本題はその先です。1.6億円の枠は「使い切るほど得」ではありません。配偶者が多く取得するほど、配偶者自身の財産と合算されて次の相続(二次相続)の課税対象が膨らむためです。どこまで使うのが最適かは、①一次相続の遺産総額 ②配偶者自身の固有財産 ③子の人数という3つの変数で変わります。

この記事では、次の3点を軸に解説します。

  • 配偶者の取得割合別に、一次+二次相続の通算税額がどう動くかを試算表で可視化(枠を使い切らないほうが有利になる境界線)
  • 実家など不動産が主資産のときの分割設計(令和6年分の相続財産は土地30.2%+家屋4.8%=35.0%が不動産)
  • 「相続税の配偶者特別控除」という制度は存在しないこと(所得税の配偶者控除・配偶者特別控除との対照表)

なお、税制は改正される可能性があります。本記事は制度の理解を助けるための一般的な解説であり、個別の税額計算や分割設計の最終判断は、必ず税理士などの専門家にご相談ください。

ポイント

結論:遺産が基礎控除を少し超える程度で配偶者に固有財産がほとんどないなら、配偶者が多めに取得しても不利になりにくい傾向です。一方、遺産が1億円を超える/配偶者に固有財産が数千万円ある/子が1人のいずれかに当てはまるほど、「1.6億円の枠を使い切らない」設計を検討する価値が高まります。

相続税配偶者控除とは:1.6億円か法定相続分の多いほうまで非課税

配偶者が実際に取得した正味の遺産額のうち、1億6,000万円と法定相続分相当額の多いほうまで相続税がかからない制度です。

国税庁のタックスアンサー No.4158(令和7年4月1日現在法令等)によると、配偶者の税額の軽減は、配偶者が遺産分割や遺贈により「実際に取得した」正味の遺産額を基準に判定されます。ポイントは次の3つです。

  • 非課税ラインは「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額
  • 対象は戸籍上の婚姻関係にある配偶者のみ(婚姻期間の長短は問わない/内縁・事実婚は対象外)
  • 税額が0円になる場合でも申告書(第5表)の提出が必須

配偶者の法定相続分は、誰と一緒に相続するかで変わります。

相続人の組み合わせ配偶者の法定相続分配偶者以外
配偶者と子2分の1子が合計2分の1
配偶者と直系尊属(親など)3分の2親などが合計3分の1
配偶者と兄弟姉妹4分の3兄弟姉妹が合計4分の1
配偶者のみ全部

たとえば遺産1億円・相続人が配偶者と子の場合、法定相続分は5,000万円ですが1億6,000万円のほうが大きいため、配偶者は1億円すべてを取得しても相続税は0円です。遺産4億円なら法定相続分2億円のほうが大きく、2億円まで非課税になります。

注意

「税額0円=申告不要」ではありません。国税庁 No.4158は、この軽減を受けるには相続税の申告書に軽減を受ける旨と計算明細を記載し、所定の書類を添えて提出する必要があるとしています。申告しなければ軽減が受けられず、本来不要だった税額が生じるおそれがあります。

なお、この制度が「配偶者控除」と通称されるのは実務上の呼び方で、税法上の名称は「配偶者に対する相続税額の軽減」です。所得税の配偶者控除とは別制度である点は、後述の対照表で整理します。

「配偶者控除とは(相続税)」を1分で押さえる4項目

制度の骨格だけを確認したい方向けに、要点を4行にまとめます。

項目内容
正式名称配偶者の税額の軽減(相続税法第19条の2)
非課税ライン1億6,000万円 または 配偶者の法定相続分相当額の多いほう
対象者戸籍上の配偶者のみ(婚姻期間の要件なし/内縁・事実婚は不可)
手続き相続開始を知った日の翌日から10か月以内に申告書を提出(税額0円でも必須)
ポイント

制度の骨格はここまでです。以降は、上位の解説記事があまり踏み込んでいない「では、いくら取得するのが最適か」を数字で見ていきます。

【独自試算】配偶者の取得割合別・一次+二次相続の通算税額マトリクス

【独自試算】配偶者の取得割合別・一次+二次相続の通算税額マトリクス

配偶者の取得割合を変えると通算税額がどう動くかを試算しました。遺産が大きいほど、また配偶者に固有財産があるほど、100%取得は不利になります。

試算の前提(必ずご確認ください)

以下はあくまで制度の傾向を理解するための単純化した試算です。実際の税額は財産構成や適用できる特例によって変わります。

  • 相続人:配偶者+子2人(二次相続の相続人は子2人)
  • 一次相続の基礎控除:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
  • 二次相続の基礎控除:3,000万円+600万円×2人=4,200万円
  • 小規模宅地等の特例生命保険金の非課税枠・生前贈与・相次相続控除は考慮しない
  • 配偶者は一次相続で取得した財産を費消せず、そのまま二次相続へ引き継ぐものとする
  • 端数は万円未満を四捨五入

計算手順は次のとおりです。①課税遺産総額=遺産総額−基礎控除 → ②法定相続分で按分し速算表(1,000万円以下10%〜6億円超55%)で各人の税額を出して合算=相続税の総額 → ③実際の取得割合で按分 → ④配偶者分は1.6億円と法定相続分の多いほうまで軽減。

表1:配偶者の固有財産が0円の場合(一次+二次の通算税額)

一次相続の遺産総額配偶者0%配偶者25%配偶者50%(法定相続分)配偶者75%配偶者100%
5,000万円20万円15万円10万円25万円40万円
8,000万円470万円353万円335万円448万円560万円
1億円770万円578万円630万円810万円1,220万円
1.5億円1,840万円1,556万円1,840万円2,545万円3,260万円
2億円3,340万円2,880万円3,340万円4,520万円6,180万円
通算税額が最小になる取得割合1億円・1.5億円・2億円は25%5,000万円・8,000万円は50%前後

※100%取得ケースとの差額でみると、遺産2億円では配偶者25%取得(2,880万円)と100%取得(6,180万円)で約3,300万円の開きが生じる計算になります。

表2:配偶者の固有財産が3,000万円ある場合(一次+二次の通算税額)

配偶者自身が預貯金や自分名義の不動産を持っている場合、その分が二次相続の課税対象に上乗せされます。

一次相続の遺産総額配偶者0%配偶者25%配偶者50%(法定相続分)配偶者75%配偶者100%
5,000万円20万円60万円110万円205万円320万円
8,000万円470万円428万円545万円793万円1,040万円
1億円770万円653万円880万円1,255万円1,720万円
1.5億円1,840万円1,631万円2,140万円3,020万円3,900万円
2億円3,340万円2,955万円3,720万円5,060万円6,920万円
通算税額が最小になる取得割合5,000万円は0%8,000万円〜2億円は25%前後
ポイント

2枚の表を見比べると、配偶者に固有財産が3,000万円あるだけで、最適な取得割合が下振れする傾向が読み取れます。表1で50%が有利だった8,000万円のケースが、表2では25%前後に移っています。「配偶者の財産はいくらあるか」を先に把握することが、分割設計の出発点になります。

注意

上記はいずれも単純化した試算であり、小規模宅地等の特例(自宅土地330平方メートルまで評価額を最大80%減額)を適用すると数字は大きく変わります。また二次相続が一次相続から10年以内に起きた場合は相次相続控除(国税庁 No.4168、経過年数1年につき10%逓減)が使えるため、通算税額はさらに下がります。ご自身のケースの判定は必ず税理士による試算をご依頼ください。

実家が主資産のとき:不動産35%という現実が分割設計を縛る

1.6億円の枠が余っていても、不動産は物理的に分けられず納税現金も不足しがちです。評価減と分割可能性を同時に設計する必要があります。

国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(令和7年12月)によると、相続財産の金額構成比は土地30.2%・家屋4.8%(合計35.0%)で、現金・預貯金等の34.9%とほぼ同水準です。つまり平均的な相続では、財産の3分の1が「動かせない資産」ということになります。

この制約は、次の3つの形で分割設計に効いてきます。

  1. 物理的に分けられない:自宅を共有名義にすると将来の売却・建替えに全員の同意が必要になり、二次相続でさらに持分が細分化します。
  2. 納税現金が足りない:不動産に評価が偏ると、税額を現金で用意できず売却を迫られる場合があります。
  3. 特例の適用者をどちらに寄せるか:小規模宅地等の特例は、誰が取得するかで要件と効果が変わります。

配偶者控除・小規模宅地等の特例・配偶者居住権の関係

手段効果の性質主な検討ポイント
配偶者の税額の軽減税額を軽減(税額控除)使いすぎると二次相続に課税が繰り延べられる
小規模宅地等の特例評価額を減額(課税価格を圧縮)一次で配偶者が使うか、子に寄せるかで二次相続の結果が変わる
配偶者居住権自宅の権利を「居住権」と「所有権」に分ける二次相続で居住権は消滅する。ただし節税目的の制度ではなく、途中で合意解除した場合などに贈与課税の論点が生じ得る

適用の順序としては、①小規模宅地等の特例などで課税価格を圧縮 → ②相続税の総額を算出 → ③取得割合で按分 → ④配偶者分に税額軽減を適用という流れになります。評価減が先、税額軽減が後です。この順序を理解しておくと、「特例を子側に寄せたほうが通算で有利になる場合がある」という判断ができるようになります。

注意

配偶者居住権は、配偶者の居住の安定を図るための制度であり、節税を目的とした設定は本来の趣旨から外れます。設定の可否・評価・将来の影響は、司法書士・税理士と併せてご確認ください。

【フローチャート】配偶者はいくら相続すべきか:5つの質問

遺産規模・配偶者の固有財産・不動産比率・想定期間・分割の見込みという5つの分岐で、取るべき方針が変わります。

以下は判断の入口を整理したものであり、最終的な結論ではありません。該当する出口をメモしたうえで、専門家への相談時に持参してください。

Q1. 遺産総額は基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超えますか?NO = 相続税の申告は原則不要。以降の検討は不要です(ただし相続登記は別途必要)。 → YES = Q2へ。

Q2. 配偶者自身の名義財産(預貯金・有価証券・配偶者名義の不動産)は3,000万円以上ありますか?YES = 二次相続の課税対象が膨らみます。出口②へ。 → NO = Q3へ。

Q3. 遺産に占める自宅など不動産の割合は7割以上ですか?YES = 納税現金が不足する可能性があります。出口③または出口④へ。 → NO = Q4へ。

Q4. 二次相続までの想定期間は10年以内ですか?YES = 相次相続控除(1年につき10%逓減)が効くため、一次で配偶者が多めに取得する不利が一部緩和されます。出口①へ。 → NO = 控除が効かないため、通算での圧縮を優先。出口②へ

Q5. 申告期限(10か月)までに遺産分割協議がまとまる見込みはありますか?NO出口⑤へ(最優先で手続きを確保してください)。

5つの出口とその副作用

出口方針前提・副作用
配偶者は法定相続分まで取得し、不動産は子へ寄せる子に納税資金があることが前提。子の生活拠点と自宅が離れていると管理負担が生じます
1.6億円の枠を使い切らず、配偶者の取得は現金中心に圧縮配偶者の生活資金が不足しないかを最優先で確認。老後資金を削ってまで節税する設計は本末転倒です
配偶者居住権を設定し、居住権と所有権に分けて分割二次相続で居住権は消滅しますが、節税目的の制度ではありません。途中解除で贈与課税の論点が生じ得ます
小規模宅地等の特例の適用者を子側に寄せる検討同居・持ち家なしなどの要件を満たす必要があります。要件判定は必ず税理士へ
分割見込書を添付していったん法定相続分で申告し、確定後に更正の請求いったん納税が必要になる場合があります。請求期限の管理が必須(次章参照)
ポイント

どの出口でも共通するのは、「配偶者の生活が成り立つこと」が節税より優先されるという点です。制度の趣旨自体が配偶者の生活保障にあることを踏まえて判断してください。

「相続税の配偶者特別控除」は存在しません:所得税との対照表

相続税に「配偶者特別控除」という制度はありません。混同されているのは所得税の制度で、税目も控除の性質もまったく別物です。

「相続税 配偶者特別控除とは」と検索される方が一定数いらっしゃいますが、相続税には「配偶者特別控除」という名称の制度は存在しません。相続税にあるのは「配偶者の税額の軽減」のみです。混同されやすい4制度を一覧で整理します。

比較項目配偶者の税額の軽減所得税の配偶者控除所得税の配偶者特別控除(参考)おしどり贈与
正式名称配偶者に対する相続税額の軽減配偶者控除配偶者特別控除贈与税の配偶者控除
対象の税金相続税所得税・住民税所得税・住民税贈与税
控除の性質税額控除(税額から直接差し引く)所得控除所得控除課税価格からの控除
上限額1.6億円または法定相続分の多いほう38万円等(納税者の所得により逓減)配偶者の所得48万円超133万円以下で段階的に逓減居住用不動産等2,000万円まで
婚姻期間の要件なしなしなし20年以上
内縁・事実婚不可不可不可不可
年収の壁との関係無関係直接関係する直接関係する無関係
申告の要否税額0円でも申告書の提出が必須年末調整または確定申告年末調整または確定申告贈与税の申告が必要
適用のタイミング相続発生時(10か月以内)毎年毎年生前贈与時
補足

「婚姻20年以上」という数字が出てくるのは贈与税のおしどり贈与であって、相続税の配偶者の税額の軽減ではありません。相続税の軽減に婚姻期間の要件はなく、結婚から数年でも戸籍上の配偶者であれば適用されます。税理士に相談する際は「相続税の配偶者の税額の軽減の件です」と伝えると、認識のズレを防げます。

使えなくなる境界線:隠蔽仮装と認定されると軽減の対象外

単なる申告漏れなら修正申告で軽減を再適用できますが、隠蔽・仮装と判断された財産は軽減の対象財産から除かれます。

国税庁 タックスアンサー No.4158は、仮装または隠蔽されていた財産は、配偶者の税額軽減を計算する際の課税価格や財産の価額に含まれない旨を明記しています。つまり、同じ「申告に載っていなかった財産」でも、扱いが二分されます。

状況軽減の適用想定される負担
評価誤り・失念など単純な申告漏れ修正申告で軽減を再適用できる過少申告加算税・延滞税
隠蔽・仮装と判断された財産その財産は軽減の対象から除かれる重加算税・延滞税に加え、軽減が効かない分の本税

この差が現実にどれくらい起きているのかは、国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」(令和7年12月)から読み取れます。

  • 実地調査 9,512件(前年比111.2%)、うち申告漏れ等の非違 7,826件(非違割合82.3%)
  • 重加算税の賦課 1,065件(非違件数の13.6%)
  • 実地調査1件当たりの申告漏れ課税価格 3,093万円/追徴税額 867万円
  • 申告漏れ相続財産2,879億円のうち現金・預貯金等が837億円(29.1%)
  • 文書・電話・来署依頼による「簡易な接触」は 21,969件(前年比117.0%)で公表開始以降最高

典型的なのが、配偶者名義の預金が実質的に被相続人の財産と認定されるケースです。生活費として渡された資金を配偶者名義で貯めていた、いわゆる「へそくり預金」がこれに当たり得ます。申告漏れ財産の3割近くを現金・預貯金等が占めるという数字は、この論点の実務上の重さを示しています。

注意

名義が配偶者であっても、原資が被相続人で、管理・運用も被相続人が行っていた場合は被相続人の財産と判断されることがあります。心当たりがある場合は、隠すのではなく申告の段階で税理士に開示して判断を仰ぐことが、結果的に負担を最小化する道です。国税庁は令和6事務年度に海外資産に係る申告漏れ課税価格が97億円(前年比155.5%)と急増したことも公表しており、CRS情報の活用も進んでいます。

分割がまとまらないときの出口:3年の次にある手続き

分割見込書で3年間の猶予を得られますが、3年で終わりではありません。承認申請書と更正の請求まで押さえておく必要があります。

申告期限までに遺産分割が確定しないと、その時点では配偶者の税額軽減を適用できません。多くの解説はここで「分割見込書を出しましょう」と終わりますが、実務ではその先に2つの期限があります。

段階手続き期限
申告時「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告書に添付(国税庁 手続案内 B1-5)相続開始を知った日の翌日から10か月(申告期限)
3年経っても未分割「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内
分割確定後更正の請求により還付を受ける(国税庁 手続案内 B1-27)事由が生じたことを知った日の翌日から4か月、または申告期限から5年のいずれか遅い日

手続きの流れを整理すると次のとおりです。

  1. 申告期限までに分割が確定しない場合は、いったん法定相続分で取得したものとして計算し、配偶者の税額軽減を適用せずに申告・納税します。
  2. 同時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付して提出します。
  3. 3年以内に分割が確定したら、更正の請求を行い、軽減を適用した税額との差額の還付を受けます。
  4. 訴訟中などやむを得ない事由で3年以内に分割できない場合は、3年を経過する日の翌日から2か月以内に承認申請書を提出します。
注意

この2か月という期限を過ぎると、原則として軽減の適用機会を失います。分割協議が長期化しそうな場合は、期限をカレンダーに入れたうえで、早い段階で税理士・弁護士に相談してください。

申告環境の変化を踏まえた10か月スケジュール

戸籍の広域交付やe-Taxの普及で準備の負担は下がりました。一方で相続登記の義務化により、申告と並行して進めるべき手続きが増えています。

国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(令和7年12月)によると、令和6年分の課税割合は10.4%(前年9.9%)で、基礎控除引下げのあった平成27年分以降で最高となりました。申告書提出に係る被相続人は166,730人、1人当たりの課税価格は1億4,025万円・税額は1,946万円です。相続税は、もはや一部の資産家だけの話ではなくなっています。

近年の実務環境の変化を、スケジュールに落とし込みます。

時期の目安やること直近の変化
〜1か月死亡届、遺言書の有無確認、相続人の確定2024年3月の戸籍法改正で「広域交付」開始。出生から死亡までの戸籍を最寄りの市区町村窓口で一括請求できます(本人による窓口請求のみ。代理人・郵送は不可、戸籍の附票は対象外)
〜3か月財産・債務の洗い出し、相続放棄の判断配偶者名義の預貯金も含めて洗い出す(前章参照)
〜4か月準確定申告
〜6か月財産評価、二次相続シミュレーション、分割方針の決定本記事の試算表・フローチャートを使う段階
〜8か月遺産分割協議書の作成、必要書類の収集未分割なら分割見込書を準備
〜10か月相続税の申告・納付e-Tax利用率は50.3%(令和6年度、前年度比+13.2ポイント)。令和7年4月から添付書類のイメージデータは白黒階調(グレースケール)でのスキャン読取りでも提出可能に
〜3年相続登記2024年4月から義務化。取得を知った日から3年以内、正当な理由なく怠ると10万円以下の過料。2024年3月31日以前に発生した相続の期限は2027年3月31日
注意

相続登記の義務化は、施行前に発生した相続にも遡及適用されます。長年放置している実家の名義がある場合、2027年3月31日が期限です。相続税の申告とは別の手続きですので、司法書士にご相談ください。

補足

令和8年度税制改正大綱(2025年12月26日決定)では、相続開始前5年以内に取得した一定の貸付用不動産を原則として通常の取引価額(時価)で評価する見直しが盛り込まれました。適用は令和9年1月1日以後に相続等により取得する財産の評価からとされています。不動産を使った対策を検討中の方は、最新の取扱いを専門家にご確認ください。

適用前チェックリスト

分割協議の前に次の8項目を確認しておくと、適用漏れと二次相続での想定外の負担を避けやすくなります。

  • 戸籍上の配偶者に該当するか(内縁・事実婚は対象外)
  • 配偶者自身の固有財産を金額で把握したか(試算表の前提になります)
  • 配偶者名義の預貯金の原資と管理実態を確認したか
  • 遺産に占める不動産の割合と、納税現金の有無を確認したか
  • 子の人数と、二次相続までの想定期間を踏まえて試算したか
  • 遺産分割協議はまとまる見込みか(未分割なら分割見込書を準備)
  • 税額が0円でも申告する前提で書類を準備しているか
  • 小規模宅地等の特例をどちらが使うかを比較検討したか

一つでも不安が残る項目があれば、その時点で税理士に相談するのが結果的に近道です。

まとめ:枠の大きさではなく「どこまで使うか」で判断する

相続税の配偶者控除(配偶者の税額の軽減)は、1億6,000万円または法定相続分相当額まで配偶者の相続税を軽減する制度です。要点を振り返ります。

  • 非課税ラインは「1億6,000万円」か「法定相続分相当額」のいずれか多い金額(国税庁 No.4158)
  • 戸籍上の配偶者が対象で、内縁・事実婚は対象外。婚姻期間の要件はない
  • 税額0円でも10か月以内の申告が必須
  • 枠を使い切るほど得とは限らない。遺産総額・配偶者の固有財産・子の人数で最適な取得割合は変わる
  • 未分割なら分割見込書 → 3年経過なら承認申請書(2か月以内)→ 分割確定後は更正の請求
  • 相続税に「配偶者特別控除」という制度は存在しない
注意

本記事は制度の概要と考え方を解説したものであり、掲載した試算はいずれも前提を単純化したモデルケースです。個別の税額や最適な分け方を保証するものではありません。相続税の取扱いは改正される可能性があり、実際の判断は財産構成・家族状況・適用できる特例によって変わります。最終的な手続きや分割の設計は、必ず税理士・司法書士などの専門家にご相談ください。

まずは「遺産総額」と「配偶者自身の財産額」の2つを数字で把握することが、後悔しない相続の第一歩です。

本記事の最終確認日:2026年8月8日(最新の制度内容は国税庁タックスアンサー等の一次情報をご確認ください)

参照した一次情報

  • 国税庁 タックスアンサー No.4158「配偶者の税額の軽減」(令和7年4月1日現在法令等)
  • 国税庁 タックスアンサー No.4168「相次相続控除」
  • 国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(令和7年12月)
  • 国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」(令和7年12月)
  • 国税庁 手続案内 B1-5「相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続」
  • 国税庁 手続案内 B1-27「相続税及び贈与税の更正の請求手続」
  • 法務省「相続登記の申請義務化」/戸籍法改正による広域交付

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次に読むと、この記事の判断がしやすくなります。

よくある質問

Q1. 相続税の配偶者控除とは、結局いくらまで無税になる制度ですか? A. 配偶者が実際に取得した正味の遺産額のうち、「1億6,000万円」または「配偶者の法定相続分相当額」のいずれか多い金額までは相続税がかからないとされています(国税庁 No.4158)。たとえば遺産1億円で相続人が配偶者と子なら、配偶者が全額取得しても1億6,000万円以下のため配偶者の相続税は0円です。

Q2. 「配偶者特別控除」は相続税にもありますか? A. 相続税に「配偶者特別控除」という制度はありません。配偶者特別控除は所得税の制度で、配偶者の所得に応じて段階的に控除額が逓減するものです。相続税にあるのは「配偶者の税額の軽減」のみで、年収の壁とも無関係です。詳しくは本文の対照表をご覧ください。

Q3. 相続税がゼロになるなら、申告はしなくてよいですか? A. 申告が必要です。国税庁 No.4158は、この軽減を受けるには申告書に軽減を受ける旨と計算明細を記載して提出する必要があるとしています。税額が0円でも、相続開始を知った日の翌日から10か月以内に申告しなければ軽減が受けられません。

Q4. 配偶者に全部相続させれば一番得ですか? A. 一概にはいえません。本文の試算(相続人が配偶者+子2人・特例なしという前提)では、遺産2億円のケースで配偶者25%取得と100%取得の通算税額に約3,300万円の差が生じる計算になりました。一次相続で0円にできても、二次相続では配偶者の税額軽減が使えず基礎控除も縮小するためです。ただし配偶者の生活資金の確保が最優先で、最適解は個別事情によって変わります。

Q5. 婚姻期間が短くても配偶者控除は使えますか? A. 使えるとされています。相続税の配偶者の税額の軽減に婚姻期間の要件はなく、戸籍上の婚姻関係にあれば適用対象です。「婚姻20年以上」という要件があるのは贈与税のおしどり贈与(居住用不動産等2,000万円まで)で、別の制度です。

Q6. 遺産分割が3年以上まとまらない場合はどうなりますか? A. 申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付し、3年以内に分割できれば適用を受けられます。訴訟中などやむを得ない事由で3年を超える場合は、申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に「やむを得ない事由がある旨の承認申請書」の提出が必要です。分割確定後は、事由を知った日の翌日から4か月または申告期限から5年のいずれか遅い日までに更正の請求を行います。

Q7. 配偶者名義の預金は、相続財産に含めなくてよいのでしょうか? A. 名義だけで判断されるわけではありません。原資が被相続人で管理・運用も被相続人が行っていた場合は、被相続人の財産と判断されることがあります。国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」では、申告漏れ相続財産2,879億円のうち現金・預貯金等が837億円(29.1%)を占めています。隠蔽・仮装と判断された財産は税額軽減の対象から除かれるため、心当たりがある場合は申告前に税理士へ開示してご相談ください。

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