相続放棄と借金

相続放棄の手続きは自分でできる|却下率0.14%と実費3千円の全手順

親の相続で借金や実家の負動産に悩む40〜60代へ。相続放棄の手続きを自分でやる場合の実費約3,000円、必要書類、3か月の期限、専門家に頼むべき4条件を却下率0.14%のデータとともに解説します。

相続放棄の手続きは自分でできる|却下率0.14%と実費3千円の全手順
まな先生解説
こころ質問
すい要点整理

相続放棄を自分でやるべき?まず何をすべきか

最初の3日でやる3つのこと

  1. 期限日の確定:死亡を知った日から3か月後の同日が期限です。例えば2026年8月19日に知ったなら2026年11月19日まで。日記・LINE・電話履歴など「知った日」を裏づけられる記録を残しておきます。
  2. 管轄裁判所の確認:被相続人の最後の住所地(住民票上の住所)を管轄する家庭裁判所を、裁判所公式サイトの管轄一覧で調べます。自分の住所地ではない点に注意が必要です。
  3. 予納郵券の金額を電話確認:切手の種類と金額は裁判所ごとに異なります。管轄裁判所の家事受付に電話し、「相続放棄の申述に必要な郵券の内訳」を聞いてメモします。この1本の電話が、後の差し戻しを防ぎます。

財産調査は「並行」で進める

  • 郵便物の確認(金融機関・カード会社・役所からの通知)
  • 信用情報機関(CIC・JICC・全国銀行個人信用情報センター)への開示請求で借入残高を確認
  • 名寄帳(固定資産課税台帳)を市区町村で取得し、不動産の全容を把握
注意

調査の過程で被相続人の預貯金を解約したり引き出して使ったりすると、民法921条の法定単純承認にあたり、相続放棄ができなくなるおそれがあります。「調べる」と「使う」は厳格に分けてください。

相続放棄が過去最多なのはなぜ?主な原因を深掘り

相続放棄が過去最多なのはなぜ?主な原因を深掘り
年相続放棄受理件数
2019年225,416件
2020年234,732件
2021年251,994件
2022年260,497件
2023年282,785件
2025年約324,000件(過去最多)
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原因①:売れない実家という「負動産」

原因②:相続登記義務化による「先送り不能」

補足

「登記が義務化されたから放棄する」という発想は順序が逆です。放棄すればその相続人は最初から相続人でなかったことになるため登記義務も生じませんが、相続権は次順位へ移ります。連鎖の行き先まで考える必要があります。

原因③:手続きのハードルが下がった

自分でやるか専門家か、どう見分ける?【判定チャート】

「知恵袋」でよく見る誤解を整理する

  • 誤解1「相続放棄は役所でできる」:できません。手続き先は家庭裁判所です。市区町村役場で行うのは戸籍・住民票除票の取得までです。
  • 誤解2「相続人全員で放棄すれば終わり」:終わりません。第1順位が全員放棄すると第2順位(父母・祖父母)、次いで第3順位(兄弟姉妹・甥姪)へ相続権が移ります。連絡しないまま放置すると、疎遠な親族が突然債権者から請求を受けることになります。
  • 誤解3「遺産分割協議で『いらない』と言えば放棄したことになる」:なりません。それは相続分ゼロの分割協議であり、債務は法定相続分に応じて負ったままです。むしろ協議書への署名は法定単純承認と評価されるおそれがあります。

相続放棄の必要書類は?自分で集める全手順

相続順位別・必要書類と実費の一覧表

申述人の立場添付書類の内訳戸籍の通数目安広域交付で一括取得できる/できない戸籍取得実費の目安印紙800円込みの総額目安役所・裁判所とのやり取り回数
配偶者申述書/被相続人の住民票除票または戸籍附票/申述人の戸籍謄本2〜3通○戸籍謄本は可/×住民票除票・附票は不可約1,200円約2,000円2〜3回
子上記に加え、被相続人の死亡記載のある戸籍謄本2〜4通○戸籍・除籍・改製原戸籍は可/×附票・除票・戸籍抄本は不可約1,500円約2,300円2〜3回
孫(代襲相続)上記に加え、本来の相続人(子)の死亡記載のある戸籍謄本4〜6通○直系のため広域交付可/×附票・除票は不可約2,700円約3,500円3〜4回
父母・祖父母(第2順位)被相続人の出生〜死亡までの全戸籍/子(第1順位)全員の死亡記載のある戸籍/申述人の戸籍謄本5〜8通○被相続人分は直系のため可/×子の戸籍は直系外で不可の場合あり約4,000〜5,500円約4,800〜6,300円4〜6回
兄弟姉妹(第3順位)被相続人の出生〜死亡までの全戸籍/第1順位全員の死亡記載戸籍/直系尊属の死亡記載戸籍/申述人の戸籍謄本8〜12通×被相続人は直系ではないため広域交付の対象外。従来どおり本籍地へ請求約6,500〜9,000円約7,300〜9,800円6〜10回
甥姪(代襲相続)上記に加え、本来の相続人(兄弟姉妹)の死亡記載のある戸籍謄本10〜14通×同上。広域交付の対象外約8,000〜11,000円約8,800〜11,800円8〜12回
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※申述人が複数いる場合、収入印紙は1人につき800円必要です(相続人3人なら2,400円)。

2024年3月開始の広域交付制度と、その落とし穴

  • 戸籍謄本(全部事項証明書)
  • 除籍謄本
  • 改製原戸籍謄本
  • 戸籍の附票
  • 戸籍抄本(個人事項証明書)
  • コンピュータ化されていない一部の戸籍
  • 請求できるのは本人・配偶者・直系尊属・直系卑属のみ
  • 顔写真付き身分証明書を持参し、本人が窓口へ出向く必要がある
  • 郵送請求・代理請求は不可
注意

相続放棄の共通添付書類である「被相続人の住民票除票または戸籍附票」は、いずれも広域交付の対象外です(住民票除票はそもそも戸籍法の制度外、戸籍附票は明文で除外)。ここだけは従来どおり、最後の住所地の市区町村または本籍地へ請求する必要があります。「窓口ですべて揃うはず」と考えていると、この1点で手戻りが発生します。

申述書の書き方——「放棄の理由」と「相続財産の概略」

補足

申述書は黒のボールペンで記入し、押印します(認印可)。書き損じは二重線+訂正印で対応できます。不安であれば管轄裁判所の家事受付に電話すると、記載方法の一般的な案内を受けられます。

相続放棄の費用はいくら?自分でやる場合と依頼時の比較

項目自分で司法書士弁護士法テラス利用
収入印紙(1人)800円800円800円800円
予納郵券数百円〜1,000円程度同左同左同左
戸籍等の取得実費1,200〜9,000円同左+取得代行費同左+取得代行費同左
専門家報酬0円3万円程度5〜10万円程度4〜6万円前後
総額の目安約2,500〜3,500円(第1順位の場合)約3.5万円約6〜11万円約4.5〜6.5万円
対応範囲すべて本人書類作成代行が中心。照会書への回答と裁判所とのやり取りは本人対応申立から照会書回答、債権者対応まで代理弁護士に準じる(資力要件あり)
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司法書士と弁護士の実質的な違い

  • 司法書士:主に書類作成の代行です。申述後に裁判所から届く照会書への回答は、原則として申述人本人が行います。書類集めが煩雑な兄弟姉妹・甥姪のケースでコストパフォーマンスが高くなります。
  • 弁護士:申立の代理人となり、照会書対応や債権者からの督促・訴訟への対応まで一貫して任せられます。3か月経過後の申述や、既に請求が来ているケースで価値が出ます。

受理証明書の費用も見込んでおく

郵送だけで完結する?申述から受理までの具体的な進め方

申述から受理までの5ステップ

  1. 書類を準備する(1〜2週間):申述書を記入し、戸籍・住民票除票を取得します。広域交付を使う場合は本人が窓口へ出向きます。収入印紙は郵便局やコンビニで購入し、申述書の所定欄に貼付します(消印は押さない点に注意)。
  2. 管轄の家庭裁判所へ郵送する(1日):申述書、添付書類、予納郵券を同封します。特定記録郵便やレターパックなど、追跡できる方法が安心です。控えとして全書類のコピーを手元に残します。
  3. 照会書・回答書が届く(申述後おおむね1〜2週間):裁判所から本人宛に届きます。「相続開始を知った日はいつか」「相続財産を処分していないか」「放棄は自分の意思か」といった内容を確認する書面です。
  4. 照会書に回答して返送する(10日以内が目安):返送期限は書面記載の日付から10日以内などと指定されるのが一般的です。回答は申述書の記載内容と矛盾させないことが重要です。特に「知った日」は申述書と必ず一致させてください。
  5. 受理通知書が届く(返送後1〜2週間):これで手続きは完了です。債権者への提示用に、必要に応じて受理証明書(1通150円)を申請します。
注意

郵送手続きで最も多いつまずきは、予納郵券の種類・金額の不足です。金額は裁判所ごとに異なるため、必ず事前に管轄裁判所へ電話で確認してください。不足すると追加郵送を求められ、期限が迫っている場合に致命的な遅れとなります。

期限直前に間に合わないときの実務

ケース別の対処——3か月経過・実家あり・次順位への連鎖

ケース1:3か月を過ぎてから督促状が届いた

  1. なぜ財産がないと信じたか:例「父とは20年以上音信不通で、資産・負債の存在を知る機会がありませんでした」
  2. 調査が困難だった具体的事情:例「同居しておらず、遺品や郵便物を確認できる立場になく、他の親族とも交流がありませんでした」
  3. いつ負債を知ったか:例「2026年8月10日に○○債権回収株式会社から督促状が届き、初めて債務の存在を知りました」
注意

3か月経過後の申述は、事情の説明の仕方が結果を左右します。判例の要件に沿った主張を組み立てる必要があるため、弁護士への相談を強くおすすめします。ここは費用をかける価値がある場面です。

ケース2:実家を管理している・住んでいる

  • 放棄時に実家に住んでいない・鍵も管理していない場合:原則として保存義務を負いません。遠方に住む相続人の負担は明確に軽くなりました。
  • 放棄時に実家に住んでいる、または鍵を管理し出入りしている場合:放棄後も、次順位の相続人または相続財産清算人に引き渡すまで保存義務が残ります。
補足

「現に占有している」の判断は事案ごとに異なります。時々様子を見に行く程度か、鍵を保管し家財を置いているかで評価が分かれ得ますので、迷う場合は司法書士・弁護士へご相談ください。

ケース3:放棄すると誰に相続権が移るか

  1. 第1順位(子・孫)が全員放棄 → 第2順位(父母・祖父母)へ
  2. 第2順位も放棄 → 第3順位(兄弟姉妹・甥姪)へ
  3. 全員が放棄 → 相続人不存在。利害関係人等の申立てにより相続財産清算人が選任される

実家という負動産、3ルートの総コスト試算

ルートA:相続して保有ルートB:相続放棄ルートC:相続+国庫帰属制度
初期費用相続登記費用 約10万円(登録免許税+司法書士報酬の目安)実費 約3,000円相続登記費用 約10万円+審査手数料 14,000円+負担金 20万円
年間コスト8万円(税5万+維持3万)0円承認までの期間分のみ発生
10年累計約90万円約3,000円約32.4万円(初期のみ、以降0円)
主なリスク登記を怠ると10万円以下の過料。売れなければコストは11年目以降も継続放棄時に占有していれば民法940条の保存義務が残る。次順位(親・兄弟姉妹・甥姪)へ相続権が移る承認率は約47%。要件を満たさず不承認なら手数料は戻らず、ルートAに戻る
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ルートCの現実味——承認率という壁

注意

ルートCは「相続したうえで」使う制度です。相続放棄をした人は所有者ではないため利用できません。放棄とルートCは併用できない点は、判断前に必ず押さえてください。

数字が示す判断のポイント

  • 実家に残る家財・仏壇・思い出の品を持ち出せなくなる可能性
  • 次順位の親族に判断を委ねることによる関係の悪化
  • プラスの財産(預貯金・他の不動産)も含めて全部を放棄することになる

やってはいけないNG対応——判断に迷う15場面チェックリスト

#具体的な行為判定根拠・理由
1相続人自身の財産(自分の預金)から葬儀費用を支払うOK相続財産に手をつけていないため処分に当たりません
2受取人が指定された生命保険金を受け取るOK受取人固有の財産であり相続財産ではないとされています
3遺族年金を受け取るOK遺族の固有の権利であり相続財産に含まれません
4写真・手紙など経済的価値の乏しい形見を引き取るOK財産的価値がなく処分と評価されにくいとされています
5被相続人の債務を相続人自身の財産から弁済するOK相続財産の処分ではありませんが、債権者に承認と誤解されないよう記録を残します
6遺産から身の丈を超えない範囲の葬儀費用を支出するグレー相当な範囲なら処分に当たらないとされた裁判例がありますが、金額次第で評価が分かれます
7賃貸物件の退去手続き・家財の搬出をするグレー保存行為の範囲なら問題になりにくいものの、家財の処分は処分行為と評価されるおそれがあります
8空き家の雨漏りを応急修繕するグレー価値を保つ保存行為は原則許容されますが、大規模改修は処分と見られる可能性があります
9被相続人の入院費を遺産から支払うグレー相続財産からの弁済は処分と評価されるおそれがあります。自身の財産から支払うのが安全です
10高額な形見(貴金属・時計等)を引き取るグレー経済的価値が高いものは処分・隠匿と評価されるリスクがあります
11被相続人の預貯金を解約・引き出して使うNG典型的な処分行為で、法定単純承認に該当するとされています
12遺産から携帯料金・公共料金・カード代金を支払うNG相続財産の処分に当たると評価されるおそれが高い行為です
13遺産分割協議書に署名・押印するNG相続人としての権利行使であり、単純承認と評価されるとされています
14自動車や不動産の名義を自分に変更するNG所有権を取得する行為であり明確な処分に当たります
15価値のある遺品を売却・廃棄するNG処分・隠匿に該当し、放棄後に発覚した場合も単純承認とみなされ得ます
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注意

判定は個別事情によって変わり得ます。特にグレー欄の行為を検討している場合は、実行前に司法書士・弁護士へご相談ください。「やってしまった後」では取り返しがつかない場面が多い領域です。

手続き面のNGも押さえる

  • 収入印紙に消印を押す:申述書に貼るだけで、押印は不要です
  • 自分の住所地の家庭裁判所へ提出する:管轄は被相続人の最後の住所地です
  • 照会書を放置する:返送しないと手続きが進まず、却下の原因になり得ます
  • 申述書と照会書で「知った日」が食い違う:矛盾は熟慮期間の判断に直結します
  • 次順位の親族に知らせない:法的義務ではありませんが、深刻なトラブルの原因になります

専門家・公的情報はどう見ているか

相続の放棄の申述は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に対して行います。費用は申述人1人につき収入印紙800円分と連絡用の郵便切手(金額は裁判所により異なります)です。

— 裁判所(最高裁判所)公式サイト「相続の放棄の申述」

相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

— 民法940条1項(令和5年4月1日施行)

  1. 申述のハードルは高くない:却下率0.14%(令和5年度司法統計)という数字が、形式要件を満たせば受理されることを示しています。
  2. 占有の有無が分水嶺:改正民法940条は、放棄しても占有していれば義務が残ることを明文化しました。
  3. 引き取り手の制度は限定的:相続土地国庫帰属制度の承認率は約47%(2025年9月30日時点)で、すべての土地の受け皿にはなっていません。

いつ専門家に相談すべきか

  • 3か月の期限を過ぎている、または期限まで残り2週間を切っている
  • 被相続人の預貯金や遺品に既に手をつけてしまった
  • 実家に住んでいる、または鍵を管理している
  • 兄弟姉妹・甥姪の立場で申述する(戸籍収集が大量になる)
  • 債権者から督促状・訴状が届いている
  • プラスの財産とマイナスの財産のどちらが多いか判断がつかない

予防・再発防止——次の相続で同じ苦労をしないために

生前にできる3つの棚卸し

  1. 不動産リストを作る:市区町村で名寄帳(固定資産課税台帳)を取得すると、その自治体内の不動産を一覧できます。複数の市区町村に不動産がある場合は、それぞれで取得します。登記簿と現況のズレ(未登記建物・共有持分)も併せて確認しておきます。
  2. 借入と保証の有無を確認する:本人の同意を得たうえで、信用情報機関への開示請求で借入状況を把握できます。特に見落とされやすいのが連帯保証債務です。事業をしていた親の場合は、保証契約の有無を確認しておく価値があります。
  3. 口座・保険・年金の所在をメモにする:金融機関名と支店名だけでもリスト化しておくと、死亡後の調査時間が劇的に短くなります。

相続が起きた直後にやること

  • 郵便物を捨てずに保管する(債権者からの通知は重要な手がかりです)
  • 被相続人名義の口座から出金しない(凍結前でも触れないのが原則です)
  • 「知った日」を記録に残す(連絡を受けた日のLINE・通話履歴など)
  • 相続人の範囲を戸籍で早めに確定する

2027年3月31日という締切を意識する

まとめ——判断すべきことと、次に取る行動

よくある質問

相続放棄の手続きは本当に自分でできますか?

相続放棄の手続きを自分でやると費用はいくらですか?

必要書類は何ですか?戸籍はどこで取れますか?

相続放棄の手続きは郵送だけで完結できますか?

3か月を過ぎてしまった場合はもう放棄できませんか?

相続放棄をすれば実家の管理から完全に解放されますか?

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