相続税の基礎控除の計算方法とは?結論と全体の流れ
全体像を4ステップで確認する
- 法定相続人の数を確定する(放棄した人も数に含める点に注意)
- 実家の相続税評価額を概算する(固定資産税の課税明細書を使う)
- 課税価格を合計する(預貯金・保険金・債務葬式費用・生前贈与を反映)
- 基礎控除額と比較する(超えれば申告要、以下なら原則不要)
基礎控除額の早見表(法定相続人の数別)
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 | よくある家族構成の例 |
|---|---|---|
| 1人 | 3,600万円 | 配偶者のみ/子1人のみ |
| 2人 | 4,200万円 | 配偶者+子1人/子2人 |
| 3人 | 4,800万円 | 配偶者+子2人/子3人 |
| 4人 | 5,400万円 | 配偶者+子3人 |
| 5人 | 6,000万円 | 配偶者+子4人 |
そもそも基礎控除の「法定相続人の数」はどう数えるのか?

民法の相続人と相続税法の人数はズレる
法定相続人の数え方 例外ケース早見表
| ケース | 民法上の相続人か | 基礎控除の人数に入るか | 保険金非課税枠の人数に入るか | 2割加算 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|---|
| ①相続放棄した子 | ならない | 入る | 入る(ただし放棄者本人が受け取った保険金には非課税枠を適用できない) | なし | 相法15条②/相法12条 |
| ②実子あり家庭の2人目の養子 | なる | 入らない | 入らない | なし | 相法15条② |
| ③実子なし家庭の3人目の養子 | なる | 入らない | 入らない | なし | 相法15条② |
| ④特別養子縁組の子 | なる | 入る(実子扱い・制限なし) | 入る | なし | 相法15条③ |
| ⑤配偶者の連れ子(養子縁組あり) | なる | 入る(養子の人数制限の対象) | 入る | なし | 相法15条② |
| ⑤'配偶者の連れ子(養子縁組なし) | ならない | 入らない | 入らない | 遺贈時あり | 民法887条 |
| ⑥代襲相続で孫が2人 | なる(2人とも) | 入る(2人分=控除が600万円増える) | 入る | なし | 民法887条②/相法15条 |
| ⑦相続開始時の胎児 | 生きて生まれれば相続人 | 生まれた後に人数へ算入 | 同左 | なし | 民法886条/相基通15-3 |
| ⑧内縁の配偶者 | ならない | 入らない | 入らない | 遺贈時あり | 民法890条 |
| ⑨離婚した前妻 | ならない | 入らない | 入らない | ― | 民法890条 |
| ⑩前妻との間の子 | なる | 入る | 入る | なし | 民法887条 |
| ⑪相続欠格・廃除された人 | ならない | 入らない(代襲者がいれば代襲者を算入) | 同左 | ― | 民法891条・892条 |
| ⑫数次相続(分割前に二次相続発生) | 亡くなった相続人の地位を承継 | 一次相続時点の人数で判定 | 同左 | 承継者により異なる | 民法896条 |
| ⑬相続人が兄弟姉妹だけ | なる | 入る | 入る | あり(税額20%加算) | 民法889条/相法18条 |
⑥の代襲相続は見落としやすい論点です。亡くなった長男に子(被相続人の孫)が2人いれば、長男1人分の枠が孫2人分に増え、基礎控除は600万円増えます。逆に、養子を増やしても算入は制限されるため、控除枠は思ったほど増えません。
⑬の兄弟姉妹が相続人になるケースでは、相続税額が2割加算されます(相続税法第18条)。子のいないご夫婦の相続では、この加算の有無が税負担を大きく変えます。
始める前の準備|手元に揃える3つの書類
準備するもの一覧
| 書類 | 入手先 | 判定での用途 |
|---|---|---|
| 固定資産税の課税明細書 | 毎年4〜5月に市区町村から送付/名寄帳を市区町村で取得 | 土地・家屋の評価額の基礎 |
| 預貯金の残高証明書または通帳 | 金融機関(相続開始日の残高) | 現預金の課税価格 |
| 保険証券・支払通知書 | 保険会社 | 死亡保険金と非課税枠の判定 |
| 証券会社の取引残高報告書 | 証券会社 | 有価証券の評価 |
| 借入金の残高証明・葬儀の領収書 | 金融機関・葬儀社 | 債務控除・葬式費用 |
| 過去の贈与の記録(通帳・贈与契約書) | 手元 | 生前贈与加算の判定 |
手順を順番に詳しく解説|課税明細書1枚から基礎控除超過を判定する4ステップ
この計算はあくまで概算です。土地の形状(不整形地)、間口・奥行、私道負担、貸地・貸家建付地などの事情で実際の評価額は大きく変わります。判定結果が基礎控除の±10%圏に入る場合は、必ず税理士に確認してください。
Step1|土地の相続税評価額を概算する
- 課税明細書の土地の「価格(評価額)」欄の金額を拾う
- その金額 ÷ 0.7 × 0.8 を計算する(=おおよそ1.14倍)
- 複数筆ある場合はすべて合計する
Step2|家屋は固定資産税評価額をそのまま使う
Step3|課税価格を合計する
課税価格 = 土地の概算額 + 家屋 + 預貯金 + 有価証券 +(死亡保険金 − 500万円×法定相続人の数)−(借入金 + 葬式費用)+(相続開始前7年以内の暦年贈与 − 延長4年分は総額から100万円控除)
Step4|基礎控除額と比較して判定する
課税価格 > 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数 → 申告が必要
記入例|地方都市の実家を相続したケース
| 項目 | 金額 | 計算根拠 |
|---|---|---|
| 土地 | 2,400万円 | 固定資産税評価額2,100万円 ÷0.7×0.8 |
| 家屋 | 500万円 | 固定資産税評価額をそのまま採用 |
| 預貯金 | 1,800万円 | 相続開始日の残高 |
| 死亡保険金 | 0円 | 1,000万円 − 非課税枠1,000万円(500万×2人) |
| 葬式費用 | △200万円 | 債務控除 |
| 課税価格 合計 | 4,500万円 | |
| 基礎控除額 | 4,200万円 | 3,000万円+600万円×2人 |
| 判定 | 300万円の超過 → 申告が必要 |
路線価図の引き方
- 国税庁サイトの財産評価基準書で、相続開始年分を選ぶ
- 都道府県 → 「路線価図」→ 市区町村 → 地名を選ぶ
- 実家の前面道路に付された数字(千円単位)を読む。「300D」なら1㎡あたり30万円
- 路線価 × 地積(㎡)で概算する
- 路線価図に該当がない地域(倍率地域)は「評価倍率表」を選び、固定資産税評価額 × 倍率で計算する
つまずきやすいポイントと対処法|「税額ゼロ」と「申告不要」は別物です
税額ゼロでも「やること」が変わる4分岐チャート
- Q1 上記4ステップの課税価格は、基礎控除を超えましたか?
- Q2 超えたのは、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減を「使う前」ですか、「使った後」ですか?
- Q3 申告期限(10か月)までに、遺産分割はまとまりそうですか?
| ルート | 該当する状況 | やるべきこと |
|---|---|---|
| A | 特例を使わずに基礎控除以下 | 相続税の申告は不要。ただし税務署から「相続税についてのお尋ね」が届いたら、同封の相続税の申告要否検討表を記入して返送します。国税庁の「相続税の申告要否判定コーナー」で事前確認も可能です |
| B | 特例適用後に税額0円 | 申告は必須。10か月以内に、小規模宅地等についての課税価格の計算明細書や遺産分割協議書の写し等を添付して提出します |
| C | 分割が10か月に間に合わない | 法定相続分で按分した未分割申告を行い、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出します |
| D | 全ルート共通(不動産がある場合) | 相続税の要否と無関係に、3年以内の相続登記が義務。間に合わなければ「相続人申告登記」で義務だけ先に履行できます |
ルートCで「申告期限後3年以内の分割見込書」を出し忘れると、後日分割がまとまっても配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用できなくなります。国税庁タックスアンサー No.4208(令和7年4月1日現在法令等)に定められた手続きで、提出自体は1枚の書類です。
押さえるべき3本の期限
生前贈与の「足し戻し」で判定が覆ることがある
- 2026年12月31日までに発生した相続:実質3年のまま
- 2027年1月1日以降の相続:「2024年1月1日〜相続開始日」が加算対象となり、期間が徐々に伸びる
- 2031年1月1日以降の相続:完全に7年
相続時精算課税制度には、2024年1月1日以後の贈与から「毎年110万円の基礎控除」が新設されました(令和5年度税制改正)。暦年課税の基礎控除110万円とは別枠で、この範囲内の贈与は相続財産に加算されないとされています。
効率化・応用のコツ|無料ツールと二次相続の先読み
二次相続まで見据えて考える
- 法定相続人が1人減る → 基礎控除が600万円下がる(配偶者+子2人の4,800万円 → 子2人の4,200万円)
- 配偶者の税額軽減(1億6,000万円)が使えない → 一次相続で使えた大きな軽減がゼロになる
一次・二次の合計で比べるという発想
- 一次相続の税額だけでなく、一次+二次の合計税額で比較する
- 母固有の財産(母名義の預貯金・不動産)も二次相続の課税価格に加わる
- 母が居住を続ける実家は、二次相続でも小規模宅地等の特例の対象になり得る
- 値上がりが見込まれる財産は、二次相続で評価が上がる可能性がある
注意点・リスク|申告漏れは高い確率で指摘されています
見落としやすい財産と論点
- 被相続人が管理していた家族名義の預貯金(いわゆる名義預金)
- 手元にある現金(相続開始直前に引き出した分を含む)
- 未把握の不動産(先代名義のまま/別の市区町村にある土地)
- 加入を把握していなかった生命保険や死亡退職金
- 貸付金やゴルフ会員権、書画骨とう
実地調査だけでなく、文書・電話等による「簡易な接触」も21,969件行われ、非違割合は26.4%でした(国税庁・令和6事務年度)。税務署から連絡が来る可能性は、実地調査の件数だけで測れません。
空き家になった実家を売る場合の注意
- 対象は昭和56年5月31日以前に建築された被相続人の居住用家屋等
- 適用期限は令和9年(2027年)12月31日まで
- 令和6年1月1日以後の譲渡では、当該家屋・敷地を取得した相続人が3人以上の場合、控除上限は2,000万円に縮小
- 令和6年1月1日以後の譲渡では、譲渡の翌年2月15日までに耐震改修または取壊しを行えば適用可
令和8年度(2026年度)税制改正大綱(2025年12月19日公表)では、相続税の基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)自体の見直しは行われず、算式は据え置かれています。改正の中心は相続開始前5年以内に取得した貸付用不動産の評価見直し(令和9年1月1日以後の相続・贈与から通常の取引価額で評価)などで、影響範囲は高資産層に限られるとされています。
具体例・ケーススタディ|3つの家族構成で判定してみる
ケース1|子2人・遺産4,500万円(前掲の記入例)
ケース2|配偶者+子2人・遺産4,600万円
ケース3|一次相続と二次相続を通しで見る
| 項目 | 一次相続(父) | 二次相続(母) |
|---|---|---|
| 法定相続人 | 母+子2人=3人 | 子2人 |
| 基礎控除 | 4,800万円 | 4,200万円(△600万円) |
| 配偶者の税額軽減 | 使える(1億6,000万円) | 使えない |
| 課税対象の財産 | 8,000万円 | 父から承継した分+母固有の財産 |
よくある質問
相続税はいくらから かかるのですか?
相続税の申告が不要なケースはどれですか?
実家の相続税評価額はどう調べればよいですか?
相続放棄をすると基礎控除は減りますか?
相続税がかからなくても相続登記は必要ですか?
まとめ|まず課税明細書を1枚開くところから
本記事は一般的な情報の提供を目的としたもので、個別の税務判断を保証するものではありません。税制は改正される場合があります。実際の申告・手続きにあたっては、国税庁の最新の公表資料をご確認のうえ、税理士・司法書士などの専門家にご相談ください。
最終確認日:2026年9月1日




