結論:まず何をすべきか(優先順位つき3ステップ)
ステップ1:財産と相続人を一覧化する(所要1〜2週間)
- 不動産:固定資産税の納税通知書、登記事項証明書(法務局・1通600円程度)
- 預貯金:金融機関名・支店名・口座種別(残高証明までは不要な場合が多い)
- 有価証券:証券会社名と口座番号、直近の取引残高報告書
- 保険:生命保険証券(受取人指定があるものは遺言の対象外になるのが原則)
- 負債:住宅ローン、事業性借入、連帯保証の有無
- 相続人:被相続人の戸籍謄本(出生から現在まで)、相続人の戸籍謄本
ステップ2:公証役場に相談予約を入れる(所要1日)
ステップ3:証人2名を確保する(所要1〜2週間)
証人の欠格事由を見落とすと、作成した遺言そのものが無効になるおそれがあります。友人・知人に頼む場合も「相続人ではないか」を必ず確認してください。手配が難しい場合、公証役場に証人紹介を依頼できることが多く、その場合は1名あたり数千円〜1万円程度の日当が目安とされています。
公正証書遺言と自筆証書遺言はどちらが良いのか?

3方式の比較
| 比較項目 | 公正証書遺言 | 自筆証書遺言(法務局保管) | 自筆証書遺言(自宅保管) |
|---|---|---|---|
| 作成費用 | 公証人手数料(財産額により変動) | 保管申請 3,900円 | 0円 |
| 証人 | 2名必須 | 不要 | 不要 |
| 形式不備の無効リスク | 低い | 中(外形チェックのみ) | 高い |
| 家庭裁判所の検認 | 不要 | 不要 | 必要 |
| 紛失・改ざんリスク | 極めて低い(原本を公証役場が保管) | 低い | 高い |
| 本人の署名・押印 | 必要(署名困難時は代替手段あり) | 必要 | 必要 |
| 財産目録の手書き | 不要 | 目録はPC作成可(本文は手書き) | 同左 |
| 出張対応 | 可(病院・自宅・施設へ公証人が出張) | 不可 | ― |
判断の分かれ目は「争いが起きそうか」
- 相続人の間に温度差がある(実家を継ぐ子と出ていった子など)
- 相続人以外に財産を渡したい(内縁の配偶者、孫、法人など)
- 不動産が主要財産で分割しにくい
- 遺言者に軽度の認知機能低下の兆しがある
- 相続人が遠方に散らばっており、検認手続きの負担が大きい
自筆証書遺言書保管制度は2020年7月10日に開始した法務局の制度です(法務省)。1件3,900円で預けられ検認も不要になりますが、法務局は内容の有効性まで審査しません。「日付・署名・押印があるか」といった外形的な確認にとどまるとされています。
公正証書遺言の費用はいくらかかるのか?
公証人手数料の基本表(政令に基づく法定額)
| 目的の価額 | 手数料 |
|---|---|
| 100万円以下 | 5,000円 |
| 100万円超〜200万円以下 | 7,000円 |
| 200万円超〜500万円以下 | 11,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 17,000円 |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 23,000円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 29,000円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 43,000円 |
| 1億円超〜3億円以下 | 43,000円+5,000万円ごとに13,000円加算 |
計算の3つのルール(ここを誤解しやすい)
- 相続人・受遺者ごとに区分して計算する:財産総額が同じでも、渡す相手が増えるほど手数料は上がります。
- 全体が1億円以下なら11,000円を加算する(遺言加算)。
- 正本・謄本の用紙代が別途かかります(1枚250円程度、合計数千円が一般的)。
具体例で試算する
- 長男分:23,000円
- 遺言加算:11,000円
- 用紙代:約3,000円
- 合計:約37,000円
- 長男分(1,500万円):23,000円
- 長女分(1,500万円):23,000円
- 遺言加算:11,000円
- 用紙代:約3,000円
- 合計:約60,000円
費用が上乗せされる場面
| 上乗せ要因 | 目安 |
|---|---|
| 公証人の出張(病院・自宅・施設) | 手数料が1.5倍+日当2万円(4時間以内は1万円)+交通費実費 |
| 証人を公証役場に紹介してもらう | 1名あたり数千円〜1万円 |
| 司法書士・行政書士への文案作成依頼 | 8万〜15万円程度 |
| 弁護士への依頼(遺言執行者就任含む) | 15万〜30万円程度+執行時報酬 |
手数料は「公証人手数料令」という政令で定められており、公証役場によって金額が変わることはありません。「うちは安くできます」という説明があった場合は、それが公証人手数料そのものではなく専門家報酬の話である可能性が高いため、内訳を確認してください。金額は改定される場合があるため、最新額は日本公証人連合会の公表情報でご確認ください。
主な原因を深掘り:なぜ遺言書でトラブルになるのか
原因1:遺留分を無視した内容
原因2:遺言能力への疑義
原因3:財産の書き漏れ
原因4:遺言執行者の未指定
原因別の見分け方:自分のケースはどれに当てはまるか
判定チェックリスト
| チェック項目 | 該当時の主リスク | 推奨アクション |
|---|---|---|
| 相続人の中に疎遠・音信不通の人がいる | 協議不能 | 公正証書+遺言執行者指定 |
| 財産の7割以上が不動産 | 遺留分の現金不足 | 生命保険で納付原資を準備 |
| 特定の子に生前贈与をしている | 特別受益の争い | 持戻し免除の意思表示を明記 |
| 再婚で前婚の子がいる | 遺留分+感情的対立 | 弁護士関与を推奨 |
| 遺言者が80歳以上または通院中 | 遺言能力の疑義 | 診断書取得+早期作成 |
| 事業用資産・自社株がある | 分割による経営混乱 | 税理士+事業承継税制の検討 |
| 相続人以外に渡したい相手がいる | 遺贈の税負担(2割加算) | 税理士に事前試算を依頼 |
「争族リスク」の簡易判定
司法書士会・弁護士会・税理士会は無料相談会を定期開催しています。また法テラス(日本司法支援センター)では、収入等の条件を満たす場合に無料法律相談を利用できる制度があります。まず無料枠で全体像を掴んでから有料依頼を判断する進め方が現実的です。
具体的な解決方法:公正証書遺言の作成手順
手順1:必要書類を揃える
- 遺言者の印鑑登録証明書(発行後3か月以内・実印持参)
- 遺言者と相続人の続柄が分かる戸籍謄本
- 相続人以外に遺贈する場合:その人の住民票
- 不動産:登記事項証明書+固定資産評価証明書(または納税通知書)
- 預貯金等:金融機関名・支店名・口座番号のメモ(通帳コピーで可)
- 証人2名の情報:氏名・住所・生年月日・職業
手順2:公証人と文案を打ち合わせる
手順3:作成当日の流れ(所要30分〜1時間)
- 遺言者・証人2名が公証役場に集合(実印・本人確認書類を持参)
- 公証人が遺言の内容を読み上げる
- 遺言者と証人が内容を確認し、署名・押印する
- 公証人が署名・押印して完成
- 原本は公証役場が保管、遺言者は正本・謄本を受け取る
- その場で手数料を現金で支払う(クレジットカード不可の役場が多い)
手順4:作成後にやること
- 正本・謄本の保管場所を家族に伝える(遺言があること自体を知らせないと発見されません)
- 遺言執行者に謄本を1部渡しておく
- 公正証書遺言検索システムに登録されるため、万一紛失しても相続開始後に相続人が全国の公証役場から検索できます(1989年以降作成分が対象とされています)
ケース別の対処:よくある5つの状況
ケース1:親が入院中・施設入所中で外出できない
ケース2:親が話せない・字が書けない
ケース3:相続人の1人と長年連絡が取れない
ケース4:実家を継ぐ子と出ていった子で不公平が出る
ケース5:夫婦で同時に作りたい
「夫婦連名の遺言書」は自筆で書いた場合も無効です。よくある誤解なので注意してください。
予防・再発防止のコツ:作った後に効かなくなる遺言を避ける
見直しのトリガー
- 不動産の売却・購入
- 金融機関の統廃合や口座の解約(「○○銀行△△支店の預金」と特定した条項が空振りする)
- 相続人の死亡・離婚・再婚
- 遺言執行者に指定した人の死亡・高齢化
- 事業の承継方針の変更
- 相続税制の改正
実務上の予防策3つ
専門家・公的情報の見解
遺言書は、自分の財産を、誰に、どのように残すかを、自らの意思で決めることができるものです。(法務省「自筆証書遺言書保管制度」案内より要旨)
相談先の使い分け
| 相談したい内容 | 適した専門家 |
|---|---|
| 遺言の書き方・全体設計 | 公証人(無料相談)、司法書士、行政書士 |
| 相続税の試算・節税の検討 | 税理士(相続専門) |
| 不動産の名義変更・登記 | 司法書士 |
| 相続人間の対立が予想される | 弁護士 |
| 事業承継・自社株の扱い | 税理士+弁護士 |
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」とされていますが、特例の適用可否や評価方法によって実際の税額は大きく変わります。この記事の数値は目安であり、個別判断の根拠にはなりません。
やってはいけないNG対応
NG1:親に無断で話を進める
NG2:相続人の1人を証人にする
NG3:遺留分を完全に無視した内容にする
NG4:口約束や録音・動画だけで済ませる
NG5:財産の一部だけを書いて安心する
NG6:作成後に家族の誰にも伝えない
遺言書を隠す・破棄する・偽造するといった行為をした相続人は、民法891条により相続人の資格を失う(相続欠格)とされています。見つけた遺言を「なかったこと」にするのは、法的に極めて重いリスクを伴います。




