結論:まず何をすべきか?公正証書遺言は「いま作る」が有力です
- 財産を「誰に何を渡すか」の単位で書き出す — 公証人手数料は財産総額ではなく、渡す相手ごとに区分して計算されるためです(後述)。
- 不動産の固定資産評価証明書を取得する — 手数料算定の基礎は固定資産評価額です。相続税評価額でも時価でもない点に注意が必要です。
- 証人2名のあてを決める — 推定相続人・受遺者とその配偶者・直系血族は証人になれません(民法974条)。あてがなければ公証役場に紹介を依頼します。
- 最寄りの公証役場に事前相談する — 電話やメールで案文の相談ができます。ウェブ会議方式を希望する場合もここで申し出ます。
- 遺言執行者と予備的遺言(補充遺言)を必ず入れる — この2つを入れ忘れると、せっかくの遺言が実務で機能しなくなります。
遺言の内容が相続人間の対立を招きそうな場合や、事業用資産・共有不動産が絡む場合は、案文を作る前に司法書士・弁護士・税理士へ相談することをおすすめします。手数料を節約して自己流で作った結果、遺留分侵害額請求で争いになる例が少なくないとされています。
遺言の公正証書の費用はいくら?実家1軒+預貯金で通し計算します

手数料は「財産総額」ではなく「渡す相手ごと」に計算します
- 実家(固定資産評価額1,200万円) → 長男に相続させる
- 預貯金800万円 → 長女に相続させる
- 目的の価額の合計 2,000万円
| 計算項目 | 2025年10月改正後 | 改正前 | 差額 |
|---|---|---|---|
| 長男分 1,200万円(1,000万超3,000万以下) | 26,000円 | 23,000円 | +3,000円 |
| 長女分 800万円(500万超1,000万以下) | 20,000円 | 17,000円 | +3,000円 |
| 小計 | 46,000円 | 40,000円 | +6,000円 |
| 遺言加算(合計1億円まで) | 13,000円 | 11,000円 | +2,000円 |
| 公証人手数料 合計 | 59,000円 | 51,000円 | +8,000円 |
不動産の目的の価額は固定資産評価額で算定します。市場で3,000万円で売れる実家でも、固定資産評価証明書の額が1,200万円ならその額が基準です。事前相談の際は固定資産評価証明書または納税通知書の課税明細書を用意してください。
手数料表と、改正で変わった額
| 目的の価額 | 手数料(2025年10月以降) | 改正前 |
|---|---|---|
| 50万円以下 | 3,000円 | (区分新設) |
| 50万円超〜100万円以下 | 5,000円 | 5,000円 |
| 100万円超〜200万円以下 | 7,000円 | 7,000円 |
| 200万円超〜500万円以下 | 13,000円 | 11,000円 |
| 500万円超〜1,000万円以下 | 20,000円 | 17,000円 |
| 1,000万円超〜3,000万円以下 | 26,000円 | 23,000円 |
| 3,000万円超〜5,000万円以下 | 33,000円 | 29,000円 |
| 5,000万円超〜1億円以下 | 49,000円 | 43,000円 |
手数料以外にかかる実費の総額
| 費目 | 金額の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| 公証人手数料 | 59,000円 | 上記の通し計算 |
| 正本・謄本の交付 | 紙1枚300円 / 電磁的記録は1件2,500円 | 紙は改正前250円から値上げ |
| 証人2名の謝礼 | 12,000〜20,000円 | 役場紹介の場合1人6,000〜10,000円が相場 |
| 戸籍謄本・住民票・評価証明書 | 数千円程度 | 通数と自治体により変動 |
| 概算総額 | おおむね7.5万〜8.5万円 | 出張を利用しない場合 |
遺言書は公正証書と自筆証書、どちらを選ぶべき?同一条件で比べます
| 比較項目 | ①公正証書遺言(2025年10月改正後) | ②法務局保管の自筆証書遺言 | ③保管証書遺言(2026年成立・施行待ち) |
|---|---|---|---|
| (a)作成時の実費総額 | 約75,000〜85,000円<br>(手数料59,000円+遺言加算込+証人謝礼12,000〜20,000円) | 3,900円(保管申請1件) | 未定(制度設計・手数料とも未公表) |
| (b)本人の作業負担 | 案文は公証人が作成。本人は署名のみ | 財産目録以外は全文自書が必要 | PC・スマホでの作成を想定 |
| (c)第三者による意思能力の確認 | あり(公証人が面前で確認) | なし(形式審査のみ) | 未定 |
| (d)死亡時に相続人へ通知が届くか | 届きません(遺言検索システムを相続人が能動的に使う必要あり) | 届きます(指定者通知・関係遺言書保管通知) | 未定 |
| (e)家庭裁判所の検認 | 不要 | 不要 | 未定 |
| (f)ウェブ会議での作成 | 可能(公証人が相当と認めた場合) | 不可(オンライン手続は試行拡大中) | オンライン前提の設計 |
| (g)いま使えるか | 使えます | 使えます | まだ使えません |
費用差7万円で何を買っているのか
検認の負担は依然として残っています
公正証書遺言の必要書類は?事前相談の前に揃えるもの
標準的に求められる書類
- 遺言者の印鑑証明書(発行後3か月以内が一般的) — 本人確認のため
- 遺言者と相続人の関係が分かる戸籍謄本 — 続柄の確認のため
- 相続人以外に遺贈する場合はその人の住民票 — 特定のため
- 不動産の登記事項証明書と固定資産評価証明書 — 物件の特定と手数料算定のため
- 預貯金の通帳の写し — 金融機関名・支店名・口座番号の特定のため
- 証人2名の氏名・住所・生年月日・職業のメモ — 遺言書に記載するため
2025年10月1日の公証人法改正により、遺言者と証人の署名は実印の押印ではなくタブレット等への電子サインで行う運用に変わりました(日本公証人連合会、2025年)。ただし本人確認資料としての印鑑証明書は引き続き求められる扱いが一般的です。役場ごとに運用が異なる可能性があるため、事前相談時に必ず確認してください。
証人になれない人を先に把握しておく
- 未成年者
- 推定相続人および受遺者、ならびにその配偶者と直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記および使用人
公正証書遺言のデジタル化で何が変わった?ウェブ会議で作れるか判定します
具体的に何が変わったか
- 原本の電子データ化 — 公正証書の原本がPDF形式の電子データで作成・保管されるようになりました
- 押印の廃止と電子サイン — 遺言者・証人の押印は不要になり、タブレット等への電子サインで署名します
- 正本・謄本の電子交付 — 電子ファイルでも紙でも交付を受けられます(電磁的記録での交付は1件2,500円)
ウェブ会議で作れるかの判定チャート
- 遺言者本人から申出ができるか(意思表示が可能か) → NOなら出張へ
- 認知機能に不安がないか(医師の診断等で説明できるか) → NOなら出張へ
- 公証人が「相当」と認める見込みか → 高齢・内容が複雑・推定相続人間に対立があるケースはNG寄り
- タブレット等への電子サインを自力でできるか → NOなら出張へ
遺言公正証書は本人の真意確認の重要性が特に高いため、リモート方式は慎重に運用されているとされています。「オンラインで作れるようになったから親の代わりに手続きを進められる」という理解は誤りです。画面越しでは真意確認が難しいと公証人が判断すれば、対面が求められます。
2026年成立のデジタル遺言、施行を待つべきか
2026年6月の民法改正で決まったこと
| 改正項目 | 内容 | 施行時期 |
|---|---|---|
| 押印の任意化等 | 自筆証書遺言の押印要件を任意化 | 公布から1年以内(2027年6月23日まで)の政令指定日 |
| 保管証書遺言の創設等 | PC・スマホで作成し法務局に保管することで効力を持つ第三の方式 | 公布から3年以内の政令指定日 |
待つリスクの方が大きい理由
- 施行日が未定 — 「3年以内」は上限であって、いつ動くかは政令次第です
- 相続はいつ起きるか分からない — 待っている間に意思能力が低下すれば、どの方式でも作れなくなります
- 後から書き直せる — 遺言は何度でも作り直せます。ただし公正証書で作り直す場合は手数料が再度かかります
公正証書遺言の落とし穴:作っても見つけてもらえないことがあります
法務局保管制度との決定的な差
- 関係遺言書保管通知 — 遺言者の死亡後に相続人等が閲覧等をすると、他の関係相続人全員に通知が届きます
- 指定者通知(死亡時通知) — 事前に指定した最大3名へ、遺言者の死亡が確認された時点で通知が送られます
遺言検索システムは「待っていても動かない」
- 遺言者の死亡を証する除籍謄本
- 検索を申し出る人が相続人であることを示す戸籍謄本
- 顔写真付きの本人確認書類
発見されるための実務的な備え
- 正本または謄本を信頼できる人に預ける — 遺言執行者、配偶者、専門家など
- 遺言を作った事実と保管場所をエンディングノート等に書き残す — 内容まで書く必要はありません
- 遺言執行者を指定し、就任予定者に伝えておく — 執行者が動けば発見の起点になります
- 公証役場名と作成年月日を控えておく — 検索がスムーズになります
「公証役場に原本があるから安心」で止めてはいけません。原本の保管と、相続開始後の発見は別の話です。誰か一人には「公正証書で遺言を作った」という事実を必ず伝えておいてください。
やってはいけないNG対応と、作った後に効いてくる4つの論点
NG1:遺言執行者を指定しない
NG2:予備的遺言(補充遺言)を入れない
NG3:相続登記の期限を意識しない
NG4:書き直しの費用を見込まない
専門家・公的情報の見解
| 知りたいこと | 参照先 |
|---|---|
| 手数料の正確な額 | 日本公証人連合会「12 手数料」 |
| デジタル化の内容 | 日本公証人連合会「2025年10月1日から公正証書の作成手続がデジタル化されます!」 |
| 遺言検索システムの使い方 | 日本公証人連合会「2 遺言」 |
| 保管証書遺言(デジタル遺言) | 法務省「民法等の一部を改正する法律案」 |
| 法務局保管制度の通知 | 法務省「10 通知」 |
| 相続登記の義務化 | 法務局「相続登記の申請義務化」 |
2025年10月1日から公正証書の作成手続がデジタル化されます。公正証書の原本が電子データ化され、ウェブ会議(リモート方式)による作成が可能になります。押印は不要となり、電子サインで署名することになります。(日本公証人連合会、2025年)
相続税が発生しそうな規模の財産(基礎控除を超える見込み)がある場合は、遺言の内容を確定する前に税理士へ相談することをおすすめします。誰に何を渡すかによって、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の適用可否が変わる場合があるためです。分け方が決まってから税理士に相談すると、選択肢が狭まっていることがあります。




