- 時間: 死亡日をDay0とした6か月カウントダウンの実務カレンダー(起算点が「死亡日」と認定された静岡家裁の裁判例つき)
- 相手: 最高裁令和5年10月26日決定を踏まえた「誰にいくら請求するか」の切り分け
- 証拠: 2025年国民生活基礎調査が示す「別居の通い介護が主流化した現実」に合わせた証拠の集め方
特別寄与料は金額も請求相手も個別事情で大きく変わります。本記事は一般的な整理であり、実際の請求可否や金額の判断は弁護士・税理士等の専門家にご相談ください。
特別寄与料の請求方法は?まず何をすればいい?
全体の流れは3ステップ
- 相続人との協議(Day0〜60目安): 相続人全員に対し、介護等の内容と希望額を伝えます。口頭ではなく内容証明郵便で申し入れると、後の「協議を試みた」記録になります。合意できたら必ず書面(特別寄与料に関する合意書)を作成します。
- 調停の申立て(Day60〜150目安): 協議が不成立、または相続人が話し合いに応じない場合、相手方の住所地の家庭裁判所へ申し立てます。
- 審判: 調停でも合意に至らないと、家庭裁判所が寄与の時期・方法・程度・相続財産の額その他一切の事情を考慮して額を定めます(民法1050条3項)。
最初の1週間でやるべきこと
- 被相続人の死亡日を確認し、その日をDay0としてカレンダーに6か月後(除斥期間満了日)と1年後を書き込む
- 相続人が誰か、住所はどこかを確認する(戸籍謄本の取得を開始)
- 介護記録・通院付添の記録・交通費の明細など、消えやすいデータ(スマホの位置情報履歴、交通系ICの乗車履歴)を先に保存する
そもそも特別寄与料とは?誰が請求できる?

請求できる4つの要件
| 要件 | 内容 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| ①親族であること | 被相続人の6親等内の血族、3親等内の姻族、配偶者 | 内縁の配偶者・事実婚のパートナーは対象外 |
| ②相続人でないこと | 相続人・相続放棄者・欠格者・廃除者は除外 | 相続人なら「寄与分」(民法904条の2)のルートになる |
| ③無償であること | 労務の提供に対価を受けていない | 生活費名目の送金、給与名目の振込、家賃相当額の免除があると崩れやすい |
| ④特別の寄与 | 療養看護その他の労務により財産を維持・増加させた | 通常の親族間の扶助を超える程度が必要とされる |
相続人の場合は「寄与分」ルートになる
相続放棄をした人も特別寄与料の請求はできません。「相続財産に借金があるから放棄したが、介護分は請求したい」という設計は制度上成り立たないため、放棄の判断前に整理が必要です。
請求できるか・誰に請求するかの判定チャート
第1段: 自分に請求資格があるか
| # | 質問 | YES | NO |
|---|---|---|---|
| Q1 | 被相続人の6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族か | Q2へ | 終了(内縁・事実婚は対象外) |
| Q2 | 自分は相続人か、相続放棄・欠格・廃除に当たるか | 寄与分ルートへ分岐(遺産分割手続で主張) | Q3へ |
| Q3 | 療養看護や家業手伝いに対価(給与・生活費名目の送金・不動産の無償使用)を受けていないか | Q4へ | 無償性が争点(送金の性質を整理して専門家へ) |
| Q4 | 死亡日から1年以内かつ「相続人を知った日」から6か月以内か | 第2段へ | 除斥期間経過(遺産分割協議への任意参加による解決の可能性のみ) |
第2段: 誰にいくら請求するか
| 遺言の状況 | 請求相手 | 根拠 | 次のアクション |
|---|---|---|---|
| (a)遺言なし | 相続人全員に法定相続分で分割請求 | 民法1050条5項 | 全員へ内容証明→協議 |
| (b)「全財産を長男に相続させる」型 | 受遺相続人(長男)1人に全額 | 最高裁令和5年10月26日決定 | 長男のみへ内容証明→単独協議 |
| (c)割合指定の遺言 | 指定相続分で按分 | 民法1050条5項 | 指定割合を確認のうえ全員へ |
「全財産を長男に」型の遺言があるのに、二男が遺留分侵害額請求をしたからといって二男にも請求すると、請求相手を誤ります。実家の相続で頻出するパターンなので、協議を始める前に遺言の有無と内容を必ず確認してください。
特別寄与料の相場と計算方法は?いくら請求できる?
計算式と日当の目安
| 要介護度 | 日当の目安 | 1年(365日)×0.7 | 3年(1,095日)×0.7 | 平均55.0か月(約1,673日)×0.7 |
|---|---|---|---|---|
| 要介護2 | 5,000〜6,500円 | 約128〜166万円 | 約383〜498万円 | 約585〜761万円 |
| 要介護3 | 6,000〜7,000円 | 約153〜179万円 | 約460〜536万円 | 約703〜820万円 |
| 要介護4 | 7,000〜8,000円 | 約179〜204万円 | 約536〜613万円 | 約820〜936万円 |
| 要介護5 | 8,000〜9,000円 | 約204〜230万円 | 約613〜690万円 | 約936〜1,054万円 |
裁量割合の考え方
- 0.8前後: 介護離職があった、介護の負担が特に重かった
- 0.7前後: 標準的なケース
- 0.5以下: 被相続人の資産で生活していた、同居による経済的利益があった
日当の根拠となる公的単価
上表はあくまで計算モデルであり、この金額が支払われることを保証するものではありません。相続財産の総額を超える請求は認められませんし、裁判所は寄与の時期・方法・程度・相続財産の額その他一切の事情を考慮して定めます(民法1050条3項)。
特別寄与料の期限はいつまで?6か月の起算点はどこ?
起算点は「相続人を知った日」であり、実務上は死亡日になりやすい
この6か月は消滅時効ではなく除斥期間と解されており、中断・更新の余地が乏しいとされています。「協議中だから止まっている」とは考えず、協議と並行して調停申立ての準備を進めるのが安全です。
死亡日起算・6か月カウントダウン実務カレンダー
| 日数 | やること | 必要書類 | かかる費用 |
|---|---|---|---|
| Day0 | 死亡日=起算点(生前から相続人を知っていれば原則ここから) | — | — |
| Day7 | 死亡届・葬儀。並行して介護記録・交通費データの保全開始 | 介護日誌、ICカード履歴、ETC明細 | — |
| Day35〜49 | 四十九日。ここで残り約4か月半という警告帯 | 遺言の有無を確認(公正証書遺言は公証役場で検索) | 遺言検索は無料〜数百円 |
| Day60 | 内容証明郵便で協議申入れ(相手方は遺言の型で決定) | 内容証明、介護内容と請求額の説明書 | 内容証明 約1,500〜2,000円 |
| Day90 | 協議不成立なら家裁書式の準備開始・戸籍収集 | 申立書、戸籍謄本一式 | 戸籍謄本 1通450〜750円 |
| Day150 | 調停申立ての実務デッドライン(書類不備の補正余地を残す) | 下記「必要書類」一式 | 印紙1,200円×人数+郵便切手 |
| Day180 | 6か月の除斥期間満了 | — | — |
| Day300 | 相続税申告の目安(額の確定時期により変動) | 相続税申告書 | 税理士報酬等 |
| Day365 | 相続開始から1年の上限 | — | — |
特別の寄与に関する処分調停の申立て方法は?費用はいくら?
管轄は「相手方の住所地」であって相続開始地ではない
費用と必要書類
- 収入印紙: 1,200円 × 相手方の人数 × 被相続人の人数
- 連絡用の郵便切手(金額は申立先の家庭裁判所に要確認)
- 申立書とその写し(相手方の人数分)
- 申立人と相手方の戸籍謄本
- 被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍・改製原戸籍)謄本
- 事情説明書
- 進行に関する照会回答書
- 送達場所等届出書
相手方が3人の場合、印紙は1,200円×3人×1人(被相続人)=3,600円です。申立て自体の費用は高額ではありませんが、戸籍収集の実費と、弁護士に依頼する場合の報酬が別途かかります。
2026年8月時点では原則として書面申立て
郵送での申立ても可能ですが、書類不備があると補正のやりとりで数週間が失われます。除斥期間が迫っている場合は、事前に家庭裁判所の手続案内で書類を確認してから提出することをおすすめします。
証拠は何を集める?別居・通い介護でも認められる?
制度が想定した「同居の嫁」像は縮小している
同居型と別居・通い型で使える証拠は違う
| 立証したいこと | 同居介護で使える証拠 | 別居・通い介護で使える証拠 |
|---|---|---|
| 介護の事実・頻度 | 介護日誌、住民票、同一世帯の記載 | 交通系ICカードの乗車履歴、ETC利用明細、ガソリン代の領収書、スマホの位置情報履歴 |
| 介護の内容・専門性 | 介護日誌の具体的記載、おむつ等の購入記録 | 介護保険サービス利用票(ケアプラン)の家族欄、ケアマネジャーとの連絡記録、LINE等のやりとり |
| 第三者による裏づけ | 近隣住民・親族の陳述書 | 通院付添の記録、薬局・病院の付添記録、デイサービス連絡帳 |
| 財産の維持・増加 | 介護費用の支出記録、施設入所を回避した期間 | 立替払いの領収書、被相続人の預金通帳(支出が抑えられている記録) |
無償性を崩す「危険物」に注意
- 被相続人からの定期的な送金(生活費名目でも「対価」と評価される可能性)
- 給与・報酬名目での振込
- 被相続人所有の不動産への無償居住(家賃相当額の免除)
送金があっても直ちに無償性が否定されるとは限らず、実費の精算だったのか労務の対価だったのかで評価が変わります。通帳を隠すのではなく、支出の中身(おむつ代・医療費の立替精算など)を説明できる形に整理しておくのが現実的です。
特別寄与料に相続税はかかる?申告期限は誰がいつまで?
当事者双方で期限も手続も違う
| 立場 | 手続 | 期限 | 起算日 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|
| 受け取る側(特別寄与者) | 相続税の申告 | 10か月以内 | 特別寄与料の額が確定したことを知った日の翌日 | 相続税法29条 |
| 支払う側(相続人) | 更正の請求 | 4か月以内 | 事由が生じたことを知った日の翌日 | 相続税法32条 |
| (参考)通常の相続 | 相続税の申告 | 10か月以内 | 被相続人が死亡したことを知った日(通常は死亡の日)の翌日 | 国税庁 タックスアンサー No.4205 |
2割加算に注意
手取りの考え方(時系列)
- 調停成立または審判確定で額が確定
- その額を「遺贈により取得したもの」とみなして相続税の課税価格に算入
- 算出された相続税額に2割加算(税額×1.2)
- 確定を知った日の翌日から10か月以内に申告・納税
- 同時期に、支払った相続人が4か月以内に更正の請求(還付を受ける手続)
実際の税額は相続財産の総額、基礎控除、他の相続人の取得額など全体の計算で決まるため、特別寄与料の額だけを見て税額を算出することはできません。金額が確定したら、早い段階で税理士に相談してください。支払う側の4か月は10か月より短く、見落とすと還付を受けられなくなります。
ケーススタディ: 実家の介護でよくある3パターン
ケース1: 遺言なし・同居の嫁が要介護4の義母を3年介護
- 請求資格: 長男の妻は被相続人の一親等の姻族で相続人ではないため、要件①②を満たします
- 算定例: 日当8,000円 × 1,095日 × 0.7 = 約613万円
- 請求相手: 相続人である長男・二男に法定相続分(各1/2)で分割請求(民法1050条5項)。長男が夫であっても、法律上は夫にも請求する形になります
- 税務: 子の配偶者のため2割加算の対象
ケース2: 「全財産を長男に相続させる」遺言あり・二男が遺留分侵害額請求
- 請求相手: 長男1人に全額請求します。最高裁令和5年10月26日決定により、遺言で相続分ゼロと指定された二男は、遺留分侵害額請求権を行使しても特別寄与料を負担しません
- 総額500万円の場合の比較:
| 状況 | 長男の負担 | 二男の負担 |
|---|---|---|
| (a)遺言なし・子2人 | 250万円 | 250万円 |
| (b)全財産を長男に+二男が遺留分請求 | 500万円 | 0円 |
- 実務上の注意: 二男に内容証明を送っても法的な請求相手ではないため、時間を浪費します。協議前の遺言確認が必須です
ケース3: 別居の甥が週3回通って要介護3の叔母を4年介護
- 請求資格: 甥は3親等の血族で相続人ではないため対象になります(叔母に子や配偶者がいる場合)
- 算定の難所: 「日数」の立証。週3回×4年=約624日を、ICカード履歴・ETC明細・ケアマネとの連絡記録で積み上げます
- 算定例: 日当6,500円 × 624日 × 0.7 = 約284万円
- 税務: 甥は一親等の血族ではないため2割加算の対象
つまずきやすいポイントと対処法
よくある失敗と対処
| つまずき | 何が起きるか | 対処 |
|---|---|---|
| 四十九日後に相談 | 残り4か月半で戸籍収集と協議を回すことになる | Day7から証拠保全、Day60に内容証明 |
| 起算点を「知った日」と楽観視 | 生前から相続人を知っていれば死亡日起算と認定されうる(静岡家裁令和3年7月26日審判) | 死亡日起算で計画を立てる |
| 遺言を確認せず全員に請求 | 請求相手を誤り、協議が空転する | 公正証書遺言の検索、自筆証書遺言の検認状況を確認 |
| 生活費の送金を放置 | 無償性を争われる | 送金の性質(実費精算か対価か)を説明できる資料を用意 |
| 記憶頼みの介護日誌 | 客観性が弱く日数を争われる | ICカード・ETC・ケアプラン・LINE等の客観データで補強 |
| 管轄を相続開始地と誤解 | 申立てのやり直しで時間を失う | 相手方の住所地の家庭裁判所を確認 |
相続人が話し合いに応じない場合
手続きを効率化するコツと同時期に重なる他の手続
戸籍収集を最初に始める
同時期に走る他のタスク
- 相続放棄: 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月
- 特別寄与料の請求: 6か月(または1年)
- 相続税の申告: 死亡を知った日の翌日から10か月
- 相続登記: 2024年4月から義務化
- 住所・氏名の変更登記: 2026年4月1日から義務化(変更から2年以内、違反は5万円以下の過料。施行前の変更は2028年3月末まで猶予)
専門家への依頼を検討する基準
- 請求額が高額(数百万円規模): 弁護士への依頼を検討
- 相手方が複数・遠方: 管轄と書類の手間が増えるため専門家が有利
- 遺言がある: 請求相手の判断が結論を左右するため、早期に相談
- 額が確定した後: 相続税の申告・2割加算の計算で税理士に相談
除斥期間が迫っている場合、弁護士に依頼してから受任・書類収集・申立てまでにさらに時間がかかります。残り2か月を切っている状況では、まず家庭裁判所の手続案内で申立書の要件を確認し、並行して相談先を探すという二正面作戦が必要になることもあります。
注意点・リスクの整理
- 除斥期間の徒過: 6か月を過ぎると、原則として請求権を行使できません。中断・更新の余地が乏しいとされるため、協議の継続を理由に申立てを先送りしないでください
- 相続財産の範囲: 特別寄与料は相続財産から支払われるため、財産が乏しい場合は請求しても回収が難しくなります
- 精神的コスト: 相続人が実の家族・親族であるケースがほとんどです。調停は非公開ですが、関係悪化のリスクは現実的です。金額と関係のバランスは本人にしか判断できません
- 金銭援助は対象外: 生活費の仕送りや不動産の提供は「労務の提供」に当たらないとされ、原則として特別寄与料の対象になりません
本記事の計算例・相場は実務解説等をもとにした一般的な目安であり、個別の事案で同額が認められることを保証するものではありません。法令・通達・裁判例は改正や新判断で変わり得ます。実際の請求にあたっては、必ず弁護士・税理士等の専門家に最新の情報を確認してください。




