相続手続きは何から始めるべきか?まず動かす3つの順番
順番1:戸籍で相続人を確定する(先に人を固める)
順番2:3つの一括照会を「同時に」出す
順番3:基礎控除を超えるかを最初に判定する
基礎控除を超える可能性が少しでもあるなら、10か月の申告期限が全工程の締め切りになります。実家の評価額と預貯金を足して4,200万円(相続人2人の場合)を超えそうなら、財産調査と並行して税理士へ相談を始めてください。
遺産相続の手続きは2026年でどう変わった?従来のやり方との比較

| 工程 | 従来(2023年頃まで) | 2026年に使える制度 | 費用 | 所要期間 | 使えない・漏れるケース |
|---|---|---|---|---|---|
| 1. 戸籍集め | 本籍地ごとに郵送請求で1〜2か月 | 戸籍の広域交付(2024年3月1日〜/最寄り窓口で一括) | 謄本1通450円等 | 即日〜数日 | 兄弟姉妹など傍系は不可/郵送・代理人請求は不可/戸籍の附票は対象外/コンピュータ化前の古い戸籍は対象外 |
| 2. 預貯金の洗い出し | 通帳・キャッシュカード・郵便物から推測し、各行へ個別照会 | 相続時預貯金口座照会(2025年4月1日〜) | 5,060円(税込) | 約1か月 | 被相続人がマイナンバーを届け出た口座のみ/残高は分からない/死亡から10年以内が申込期限 |
| 3. 不動産の洗い出し | 固定資産税納税通知書と市区町村ごとの名寄帳 | 所有不動産記録証明制度(2026年2月2日〜) | 書面1,600円/オンライン郵送1,500円/オンライン窓口交付1,470円 | 数日〜 | 氏名・住所の表記が一致しないと抽出されない/同姓同名が混入しうる/非コンピュータ化物件は対象外 |
| 4. 生命保険の確認 | 保険証券・通帳の引落履歴・郵便物を探す | 生命保険契約照会制度(生命保険協会) | Web6,000円/書面7,000円(対象者1名につき・災害時は無料) | 数週間 | 有効に継続している契約のみ/支払済・解約済・失効済は対象外/財形保険や支払開始済の年金保険等も対象外 |
| 5. 当座の生活費・葬儀費用 | 口座凍結で引き出せず立替 | 預貯金の仮払い制度(民法909条の2) | 無料(書類実費) | 数日〜2週間 | 1金融機関150万円が上限、かつ「預貯金額×1/3×法定相続分」の低い方まで |
| 6. 名義変更(登記) | 任意だったため放置されがち | 相続登記の義務化(2024年4月1日〜・3年以内) | 登録免許税=評価額×0.4%+報酬 | 1〜2か月 | 正当な理由なく怠ると10万円以下の過料。2024年4月1日前の相続は2027年3月31日が期限 |
生命保険契約照会制度の利用料は2026年4月に改定され、従来の一律3,000円からWeb6,000円・書面7,000円になったと案内されています。申請前に生命保険協会の公式サイトで最新の料金をご確認ください。
表の右端が示す「制度では埋まらない穴」
親の財産はどこまで自力で探せる?判定チャート
所有不動産記録証明書は「出てきたものが全部」ではありません。実家の登記名義が古い住所のままだと、その物件が抽出されない可能性があります。心当たりのある市区町村では、名寄帳を併せて取得してください。
相続手続きの期限はいつまで?起算点が全部違う5つの締め切り
| 期限 | 手続き | 起算点(ここが違う) | 遅れた場合 |
|---|---|---|---|
| 3か月 | 相続放棄・限定承認 | 自己のために相続の開始があったことを知った時 | 原則として単純承認とみなされ、負債も承継 |
| 4か月 | 準確定申告 | 相続の開始があったことを知った日の翌日 | 延滞税・加算税の対象 |
| 10か月 | 相続税の申告・納付 | 相続の開始があったことを知った日の翌日 | 延滞税・加算税。配偶者控除等の特例が使えない場合がある |
| 3年 | 相続登記(義務化) | 所有権を取得したことを知った日 | 正当な理由なく怠ると10万円以下の過料 |
| 10年 | 遺産分割(民法904条の3) | 相続開始の時 | 原則として特別受益・寄与分を主張できず、法定相続分で分けることに |
見落とされがちな「10年ルール」という時限爆弾
期限切れが特に多い「請求しないともらえないお金」
- 未支給年金:日本年金機構によると、年金支払日の翌月初日から5年で時効消滅します。
- 埋葬料:全国健康保険協会(協会けんぽ)では、生計を維持されていた方に埋葬料5万円が支給され、請求期限は死亡した日の翌日から2年です。
- 葬祭費:国民健康保険では自治体により概ね5万円(東京23区は7万円)、こちらも2年が目安とされています。
- 高額療養費:亡くなる直前の入院分が対象になることがあり、期限は2年です。
相続放棄の手続きは自分でできる?費用と「その後」の落とし穴
自分でやる場合の手順
- 被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所を確認します。
- 相続放棄申述書(裁判所ウェブサイトから入手可能)を作成します。
- 被相続人の死亡の記載がある戸籍(除籍)謄本、住民票除票、申述人の戸籍謄本を集めます。
- 収入印紙800円を貼り、郵便切手を添えて家庭裁判所へ提出します(郵送可)。
- 後日届く「照会書」に回答して返送します。
- 「相続放棄申述受理通知書」が届いて完了です。債権者に示す場合は受理証明書(1通150円程度)を別途請求します。
放棄したのに実家の管理義務が残る人・残らない人
相続人全員が放棄したら、実家はどうなるのか
放棄を検討している間に、故人の預金を引き出す、家財を処分する、賃料を受け取るといった行為をすると、単純承認とみなされて放棄できなくなるおそれがあります。3か月の期限に間に合わない事情がある場合は、家庭裁判所へ期間伸長の申立てができます。判断に迷う段階で弁護士・司法書士へご相談ください。
費用はいくらかかる?実家1件+銀行3行のモデルシミュレーション
自分でやる場合:約66,660円/3〜4か月
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 戸籍一式(広域交付) | 約5,000円 |
| 所有不動産記録証明書 | 1,600円 |
| 相続時預貯金口座照会 | 5,060円 |
| 生命保険契約照会(Web) | 6,000円 |
| 登録免許税(1,100万円×0.4%) | 44,000円 |
| 登記事項証明書・郵送実費等 | 約5,000円 |
| 合計 | 約66,660円 |
専門家に依頼する場合:約14万円/1.5〜2か月
分岐で総額はこう変わります
- 分岐A:土地の評価額が100万円以下——法務局の案内によると、価額100万円以下の土地は令和9年(2027年)3月31日まで登録免許税が免税とされています。この場合、登録免許税44,000円が0円になり、総額は2万円台まで下がります。
- 分岐B:相続人全員が相続放棄する——申立て実費は1人あたり800円台で済みますが、実家は残ります。清算まで進めるなら相続財産清算人の予納金20万〜100万円が別途必要になり、DIYの66,660円より一桁高くなる可能性があります。
- 分岐C:相続税がかかる場合——基礎控除は3,000万円+600万円×2=4,200万円です。これを超えるなら10か月の申告期限が最優先の締め切りになり、税理士報酬(遺産総額に対する料率で設定されることが多い)が加算されます。
専門家・公的情報はどう使い分ける?
| 状況 | 相談先 | 主に頼めること |
|---|---|---|
| 実家の名義変更をしたい | 司法書士 | 相続登記、法定相続情報一覧図の作成 |
| 基礎控除を超えそう | 税理士 | 相続税申告、小規模宅地等の特例の適用判断 |
| 相続人間で対立している | 弁護士 | 遺産分割交渉、調停・審判の代理 |
| 書類収集・協議書作成を任せたい | 行政書士 | 戸籍収集、遺産分割協議書の作成 |
法定相続情報一覧図を先に作ると全工程が軽くなります
戸籍の広域交付には、実務で確実に詰まる4つの対象外があります。①兄弟姉妹など傍系の戸籍は請求できない(子がいない方の相続で必ず問題になります)、②郵送請求・代理人請求は不可(=専門家に丸投げできず、必ず本人が窓口へ行く必要があります)、③戸籍の附票は対象外(相続登記の住所証明で必要になり、本籍地へ別途請求します)、④コンピュータ化前の古い戸籍は対象外。「窓口1回で全部揃う」と考えていると二度手間になります。
やってはいけないNG対応
- 相続放棄を検討中に故人の財産を使う——預金の引き出し、家財の処分、賃料の受領は単純承認とみなされるおそれがあり、放棄できなくなる可能性があります。
- 葬儀費用のために口座から勝手に引き出す——仮払い制度(1金融機関150万円かつ預貯金額×1/3×法定相続分の低い方)という正規のルートを使ってください。
- 相続登記を「いつかやる」で放置する——2027年3月31日という遡及分の期限があります。すぐに分割協議がまとまらない場合は、相続人申告登記という暫定手段で義務を履行できます。
- 遺産分割協議書を口約束で済ませる——名義変更の場面で必ず書面と実印・印鑑証明書を求められます。
- 照会制度の結果を「これで全部」と信じ切る——所有不動産記録証明は表記ゆれで漏れ、口座照会はマイナンバー未登録口座を拾えず、保険照会は解約済契約を返しません。
- 10年ルールを知らずに話し合いを先送りする——介護の寄与や生前贈与の事情が主張できなくなるおそれがあります。
再発防止:次の相続で同じ苦労をしないために
- 照会結果の通知書と残高証明書をまとめてPDF化し、相続人全員がアクセスできる場所に保管します。
- 存命の親については、金融機関へのマイナンバー登録を促しておきます。登録があれば、次の相続時に口座照会が機能します。
- 実家の登記名義と現住所の表記を一致させておきます。所有不動産記録証明制度は表記の一致が抽出の前提とされているためです。
- 遺言書がある場合、法務局の自筆証書遺言書保管制度を使えば検認が不要になります。
- ネット証券・暗号資産・サブスクの契約は、一括照会の仕組みがないため、本人が一覧を残す以外に方法がありません。




