本記事は公的機関の公表資料をもとにした一般的な解説です。相続関係や税務の判断は個別事情で結論が変わるため、具体的な手続きは司法書士(相続登記)・税理士(相続税)などの専門家にご確認ください。
法定相続情報一覧図とは?定義と「何ができる書類か」を先に答える
- 証明されるのは「戸籍から読み取れる法定相続人の範囲」だけ: 誰が何を相続するか(遺産分割)、相続放棄の有無は反映されません。
- 写しは何通でも無料: 手続き先の数だけ取得でき、同時並行で進められます。
- 申出先は4通りから選べる: 被相続人の本籍地・最後の住所地・申出人の住所地・被相続人名義の不動産所在地のいずれかを管轄する登記所で、窓口でも郵送でも申出できます(法務局「具体的な手続について」2024)。
- 5年間保管され再交付できる: 申出日の翌年から起算して5年間保管され、その間は当初の申出人のみ再交付を受けられます(他の相続人は再交付を受けられません)。
【足切り】申し出る前の3分チャート——5問で「作れるか・どう作るか」を判定

【早見表】一覧図の写しが「戸籍の束の代わり」になる手続き一覧
| 手続き | 戸籍の束を省略できるか | 番号だけで足りるか | 続柄「子」でも通るか | 一覧図に加えて必要な書類 | 根拠 |
|---|---|---|---|---|---|
| ①相続登記 | ◎ | ○(不動産登記手続) | ○ | 遺産分割協議書・印鑑証明書等 | 法務局 page7_000013 |
| ②相続人申告登記 | ◎ | ○(申出書に番号記載可) | ○ | 原則不要(登録免許税0円・Web申出可) | 法務省 minji05_00602 |
| ③所有不動産記録証明書の請求 | ◎(相続関係を証する情報として利用) | ○(番号提供で書類提出に代替可) | ○ | 手数料1,600円(書面請求) | 法務省 minji05_00740 |
| ④預貯金の払戻し・解約 | ◎ | ✕ 写しの原本が必要 | ○ | 遺産分割協議書・相続人の印鑑証明書等 | 法務局 page7_000013 |
| ⑤相続税の申告 | ◎ | ✕ 写しの原本が必要 | ✕ 不可 | 実子・養子の別が分かる記載+養子がいれば養子の戸籍謄抄本 | 国税庁 E17.pdf |
| ⑥死亡に起因する年金等手続き | ◎(令和2年10月26日〜) | ✕ | ○ | 各制度所定の請求書類 | 法務局 page7_000018 |
| ⑦相続放棄者がいる場合 | △ 放棄者も記載されたまま | ✕ | ○ | 家庭裁判所の相続放棄申述受理証明書 | 法務局 page7_000014 |
- ④⑤列が実務の落とし穴: 法務局(2024)は不動産登記以外の手続きでは法定相続情報番号を使えないと明記しています。銀行が5行あるなら、番号ではなく写しを5通取る必要があります。
- 相続税申告の可能性が1%でもあるなら「子」表記は避ける: 国税庁(2024)は実子・養子の別が分かる記載に限ると明示しています。作り直しには戸籍の再提出が必要です。
- ③は2026年2月2日開始の新制度: 被相続人名義の不動産を全国からまとめて洗い出せるため、相続登記の対象漏れを防げます(後述)。
【計算】戸籍の束を回す vs 一覧図を作る——実費と日数のシミュレーション
| 進め方 | 実費 | 完了までの日数 | 窓口へ行く回数 | 再取得の可否 |
|---|---|---|---|---|
| A: 束を1セットで順番に回す | 6,000円 | 1か所あたり返却待ち2〜3週間×5か所=約10〜15週 | 戸籍収集+提出5回 | 都度、市区町村へ再請求(有料) |
| B: 束を2セット取得し並行提出 | 6,000円+5,100円=11,100円 | 2系統に分けて約5〜8週 | 戸籍収集(2回分)+提出5回 | 同上(有料) |
| C: 一覧図の写しを5通取得 | 6,000円+交付0円 | 申出から交付までおおむね業務日5日+5か所同時提出=約2〜3週 | 戸籍収集+申出1回(郵送可) | 5年間は申出人が無料で再交付可 |
- 費用差はBとCで5,100円: 2セット目の戸籍代がまるごと不要になります。写しは何通でも0円のため、提出先が増えるほどCが有利になります。
- 日数差が最も大きい: Aは返却待ちの直列処理で最大15週。Cは同時提出できるため2〜3週で完了します。相続税申告(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)が絡むと、この差は現実的な意味を持ちます。
- Cだけが「あとから増やせる」: 手続き後に古い口座や証券が見つかっても、5年以内なら申出人が無料で再交付を受けられます。A・Bは戸籍の再取得からやり直しです。
2026年2月以降の追記——所有不動産記録証明書(手数料1,600円/書面請求)を請求する際、相続人は相続関係を証する情報を提供する必要があります。Cなら手元の写しをそのまま添付でき、戸籍の再収集が不要です。A・Bで束を各所に出し切っていると、証明書請求のためにもう一度戸籍を集める必要が生じます。
日数は返却待ちや登記所の混雑で変動する目安です。交付までの期間について公式に統一された日数は公表されておらず、上記は横浜地方法務局が示す「おおむね業務日で5日以内」を前提にしています。急ぐ場合は申出先の登記所に事前確認してください。
2026年2月開始「所有不動産記録証明制度」と一覧図の関係
- 「知らなかった不動産」を洗い出せる: 遠方の山林や共有持分など、把握していない不動産があると相続登記の申請義務を果たせません。証明書で名義不動産を一覧化してから登記の計画を立てられます。
- 一覧図が「そのまま使える」: 戸籍の束を再度集める必要がなく、写しを添付するか番号を伝えるだけで済みます。
関連して、住所・氏名の変更登記が令和8年4月1日から義務化されました(名古屋法務局2026)。変更日から2年以内に申請が必要で、正当な理由なく怠ると5万円以下の過料。施行日前に変更していた場合も令和10年3月31日までに登記が必要です。登記名義人の住所が最新でないと、所有不動産記録証明の検索精度にも影響します。
「法定相続情報一覧図の写し」とは?認証文付き写しと法定相続情報番号の違い
| 提出先 | 法定相続情報番号だけで足りるか |
|---|---|
| 法務局(不動産登記の申請等) | ○ 写しの添付を省略できる |
| 法務局(相続人申告登記の申出) | ○ 番号の記載または写しの提出が可能(法務省「相続人申告登記について」2024) |
| 法務局(所有不動産記録証明書の請求) | ○ 番号の提供で書類提出に代えられる(法務省2026) |
| 銀行・証券会社 | ✕ 従来どおり写しの原本が必要 |
| 税務署(相続税申告) | ✕ 従来どおり写しの原本が必要 |
| 年金事務所・保険会社 | ✕ 従来どおり写しの原本が必要 |
「申出人」とは?誰にするかが5年後に効いてくる
- 申出人になれるのは相続人: 被相続人の相続人、または当該相続人の地位を相続により承継した人です。
- 利用できない場合がある: 被相続人や相続人が日本国籍を有しないなどの理由で戸除籍謄抄本を提出できない場合は、本制度自体を利用できません。
- 代理人を立てられる: 法定代理人のほか、申出人の親族、および弁護士・司法書士・土地家屋調査士・税理士・社会保険労務士・弁理士・海事代理士・行政書士の8士業が代理できます。
- 再交付は当初の申出人のみ: 保管期間は申出日の翌年から起算して5年間で、その間に再交付を受けられるのは当初の申出人だけです。他の相続人は再交付を受けられません。
申出人を「実家を継ぐ人」にしてはいけない理由
相続人の住所を書くか書かないか——判断を分ける一文
| 状況 | 住所記載の判断 |
|---|---|
| 相続登記を数か月以内に済ませる見込み | 記載する(住民票の手間が減る) |
| 相続人に転居・施設入居の予定がある | 記載しない(住所変更で使えなくなるリスク) |
| 相続人が多く全員の住民票を集めるのが大変 | 記載しない(住民票の取り寄せ自体を省ける) |
| 手続き先が金融機関中心 | 記載の実益は小さい(金融機関は別途本人確認書類を求めることが多い) |
金融機関によっては本籍の記載を求める運用があるため、被相続人の最後の本籍は記載しておくと差し戻しを避けられる場合があります。
戸籍の広域交付との使い分け——「自分で1日」か「専門家のほうが早い」かの分岐
- 請求できるのは本人・配偶者・直系尊属(父母祖父母)・直系卑属(子孫)の戸籍のみ
- コンピュータ化されていない一部の戸籍・除籍は対象外
- 一部事項証明書・個人事項証明書は請求できない
- 請求できる人自身が市区町村の窓口に出向く必要があり、郵送・代理人による請求はできない(士業の職務上請求も不可)
| 相続人の顔ぶれ・戸籍の状態 | 現実的な最短ルート |
|---|---|
| 相続人が配偶者と子のみ/戸籍がすべてコンピュータ化済み/本人が平日に窓口へ行ける | 自分で広域交付。1日で戸籍が揃い、そのまま一覧図の申出へ進めます |
| 兄弟姉妹・甥姪が相続人/古い戸籍(コンピュータ化前)が絡む/遠方・高齢で窓口に行けない | 専門家に依頼したほうが早い。広域交付では兄弟姉妹の戸籍も古い戸籍も取れず、郵送請求と読み解きが必要になります |
取得までの5ステップと必要書類
- 被相続人の戸籍一式を集める: 出生から死亡までの連続した戸除籍謄本を取得します。相続人が直系で本人が窓口に行ける場合は広域交付でまとめて請求できます。兄弟姉妹が相続人の場合や古い戸籍が絡む場合は本籍地への個別請求が必要です。
- 住民票関係の書類を集める: 被相続人の住民票の除票(取得できない場合は戸籍の附票)と、相続人全員の現在の戸籍謄本または抄本を取得します。一覧図に相続人の住所を記載する場合は各相続人の住民票も用意します。
- 一覧図を作成する: 法務局のウェブサイトで様式(Excel)と記載例が公開されています。配偶者と子/子のみ/配偶者と親/配偶者と兄弟姉妹/代襲相続/嫡出でない子/養子を含む子/旧民法下の相続などのパターンが用意されています(法務局「主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例」2024)。A4用紙1枚に作成し、用紙の下部は認証文用の余白として空けます。パソコン作成でも手書きでも構いません。続柄はQ4の判定どおりに記載してください。
- 申出書を記入し、管轄の登記所に提出する: 「法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書」に必要事項を記入し、戸籍一式・一覧図・申出人の本人確認書類とあわせて提出します。窓口のほか郵送も可能で、郵送の場合は返信用封筒と切手を同封します。申出先は4通り(被相続人の本籍地/最後の住所地/申出人の住所地/被相続人名義の不動産所在地)から選べます。
- 認証文付きの写しを受け取り、各手続きへ: 登記官の確認を経て交付されます(横浜地方法務局の例でおおむね業務日5日以内)。戸籍の原本もこのとき返却されるため、写しとともに各手続きを一斉に進められます。
一覧図を1回で通すための申出前チェックリスト10項目
- [ ] ①戸籍の連続性: 被相続人の出生から死亡までの戸除籍がつながっているか(転籍・改製による抜けを確認)
- [ ] ②住民票の除票: 取得したか。廃棄済みなら戸籍の附票で代替したか
- [ ] ③続柄の表記: 相続税申告の可能性があるなら「長男」「長女」「養子」など戸籍どおりに書いたか(「子」表記は相続税申告に使えません)
- [ ] ④養子がいる場合: 相続税申告用に、養子の戸籍謄本または抄本を別途用意したか(国税庁2024)
- [ ] ⑤住所の記載可否: 書くか書かないかを決めたか(書けば相続登記で住民票を省略できる一方、交付後の住所変更を理由とする再申出は不可)
- [ ] ⑥申出人の選定: 今後3年以上、手続きを担い連絡が取れる人を申出人にしたか(再交付は申出人のみ・保管5年)
- [ ] ⑦必要通数: 法務局・銀行・証券・税務署・年金・保険の合計+予備2通を数えたか(番号が使えるのは不動産登記のみ)
- [ ] ⑧相続放棄者への対応: いる場合、家庭裁判所の「相続放棄申述受理証明書」を別途手配したか(放棄は一覧図に反映されません)
- [ ] ⑨数次相続の理解: 被相続人ごとに別の一覧図が必要だと理解しているか
- [ ] ⑩提出先の独自運用: 金融機関の「発行後○か月以内」という基準を確認したか
3つの書類を比較する——一覧図・戸籍の束・相続関係説明図
| 比較項目 | 法定相続情報一覧図(の写し) | 戸籍の束 | 相続関係説明図 |
|---|---|---|---|
| ①作成主体・認証 | 相続人が作成し登記官が認証 | 市区町村が発行(認証という概念なし) | 相続人や専門家が自作(認証なし) |
| ②費用 | 0円(何通でも) | 450〜750円 × 通数 | 0円 |
| ③兄弟姉妹が相続人の場合 | ○ 利用できる | △ 広域交付では取得不可。本籍地に個別請求 | ○ 作成できる |
| ④代理人・郵送での取得 | ○ 8士業+親族/郵送可 | △ 広域交付は本人が窓口へ。郵送・代理不可 | — |
| ⑤複数機関で同時に使えるか | ○ 何通でも無料 | △ 原本還付を待つか通数分を揃える | ✕ 単独では証明力なし |
| ⑥相続税申告に使えるか | ○ ただし実子・養子の別が分かる記載に限る | ○ | ✕ |
| ⑦不動産登記で添付を省略できるか | ○ 法定相続情報番号の記載で可 | ✕ | ✕ |
| ⑧所有不動産記録証明の請求に使えるか | ○ 写し・番号のいずれも可 | ○ | ✕ |
| ⑨相続放棄・遺産分割の結果の反映 | ✕ 別途書類が必要 | ✕ | ✕ |
| ⑩日本国籍でない相続人がいる場合 | ✕ 制度を利用できない | ○ | ○ |
2027年3月31日の期限——相続登記の義務化と一覧図の関係
- 権利関係を公示するものではないため、売却や抵当権設定には別途相続登記が必要
- 遺産分割に基づく相続登記の申請義務は履行できない(3年以内の申請義務を一旦果たすための手当て)
相続税申告が必要な世帯も増えています。国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(2025年12月公表)によると、死亡者数約161万人に対し相続税の申告書提出に係る被相続人数は約16万7千人で、課税割合は10.4%と平成27年分以降の最高を更新しました。約10人に1人が申告対象という水準です。相続税申告で一覧図を使う可能性が高まっている以上、続柄は戸籍どおりに書いておくのが安全です。
戸籍の氏名の振り仮名について、通知された振り仮名の訂正届出期限は令和8年5月25日で終了しました。以後の変更には家庭裁判所の許可が必要です(杉並区の案内2026年5月更新)。取り寄せた戸籍の表示が従来と変わっている場合がありますので、一覧図の氏名表記と戸籍の記載が一致しているかご確認ください。
一覧図に反映されないこと・使えないケース
- 相続放棄: 放棄しても戸籍には表れないため、一覧図には記載されたままです。証明には家庭裁判所の「相続放棄申述受理証明書」が別途必要です。
- 遺産分割の内容: 誰がどの財産を取得するかは遺産分割協議書で証明します。一覧図だけで相続手続きは完結しません。
- 数次相続: 父の相続手続き中に母も亡くなったようなケースでは、2つの相続を1枚にまとめられず、被相続人ごとに1枚ずつ作成します。
- 日本国籍を有しない場合: 被相続人または相続人が日本国籍を有しないなどの理由で戸除籍謄抄本を提出できない場合は、制度そのものを利用できません(法務局「具体的な手続について」2024)。
- 最初の戸籍収集は省略できない: 一覧図を作るには出生から死亡までの戸籍一式を一度は集める必要があります。「戸籍集めが不要になる制度」ではありません。
一覧図の写しに法律上の有効期限はありませんが、金融機関によっては「発行後3か月以内」「6か月以内」といった独自の基準を設けている例があるとされています。相続税申告(相続開始を知った日の翌日から10か月以内)や遺産分割の進み具合と合わせ、取得のタイミングを設計してください。取得が早すぎると、使う頃には提出先の基準を外れて再交付が必要になることがあります。
よくある質問
- 法務局(法務省)「『法定相続情報証明制度』について」https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000013.html
- 法務局(法務省)「法定相続情報証明制度の具体的な手続について」https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000014.html
- 法務局(法務省)「主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例」https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000015.html
- 法務局(法務省)「法定相続情報証明制度の利用範囲の拡大について」https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/page7_000018.html
- 横浜地方法務局「法定相続情報証明制度」https://houmukyoku.moj.go.jp/yokohama/page000294.html
- 国税庁「相続税の申告のしかた(令和6年分)-相続税の申告の際に提出していただく主な書類」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/sozoku/shikata-sozoku2024/pdf/E17.pdf
- 国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/sozoku_shinkoku/index.htm
- 法務省「相続登記の申請義務化について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00599.html
- 法務省「相続人申告登記について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00602.html
- 法務省「所有不動産記録証明制度について」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji05_00740.html
- 法務省「戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)」https://www.moj.go.jp/MINJI/minji04_00082.html
- 名古屋法務局「住所・名前の変更登記に関する手続のご案内【令和8年4月から義務化】」https://houmukyoku.moj.go.jp/nagoya/page000001_00951.html
- 新宿区「戸籍の証明書の種類・手数料」https://www.city.shinjuku.lg.jp/todokede/koseki02_000009.html
最終確認日:2026年8月24日




